周東佑京、“世界の盗塁王”に最も近い男の野望
日本プロ野球界において、盗塁数を筆頭とした“走”の記録の多くはアンタッチャブルレコード(今後破りようがない記録)だと言われ続けてきた。“世界の盗塁王”の異名を持つ福本豊が独占し、およそ半世紀もの間、誰もその牙城を崩せないでいたからだ。
しかし昨シーズン、福本の独壇場に風穴を開けた男が現れた。13試合連続で盗塁を成功させ、福本を抜き世界記録を樹立した福岡ソフトバンクホークスの周東佑京だ。久々に登場した“足で魅せる”スピードスターは、さらなる飛躍が期待される今季に向け今何を思うのか?
――今春のキャンプでは右肩の負傷で出遅れていましたが、コンディションはもう大丈夫ですか?
周東:大丈夫です。昨年8月、一塁に帰塁した際に首のあたりにタッチされて違和感を覚えた箇所だったので、時間をかけて万全の状態にして戻ってきました。今は問題なくプレーできています。
――2019年のオフに「足のスペシャリスト」として侍ジャパンに選出され、プレミア12で活躍。昨シーズンは開幕前から「いくつ盗塁してくれるんだ?」と首脳陣からもファンからも期待が寄せられていました。プレッシャーは感じてましたか?
周東:そうですね。でも、シーズン序盤は代走で出ることが多く、相手も「走ってくる」と警戒しているなかでの出場ばかり。自軍のベンチは走ってほしいと思って代走に出すわけですから、当然ベンチの期待に応えたいとは思うんですが……大事な場面での代走が多かったので「失敗できないな」という重圧も、強く感じていました。
――シーズン初盗塁は開幕から1か月後。序盤なかなか走れなかったのは、そうしたプレッシャーがあったわけですね。
周東:その頃は「成功したい」という気持ちが強すぎて、なかなかいいスタートが切れなかったのかなと思います。
――野球界では「足にスランプはない」という言葉がありますが、実際のところ、どうなんでしょう?
周東:“速さ”に関しては大きなスランプはないのかなと思います。ただ、走塁の良しあしにはスランプがあるというか、メンタルによって大きく左右されますね。さっき言ったように「成功したい」「いいスタートを切りたい」という気持ちが強すぎても難しい。それに、牽制が上手なピッチャーに当たるとスタートのタイミングが狂ってしまうこともあるので、スランプがないとは一概に言い切れないです。
――素朴な疑問なんですけど、盗塁するときに何を考えてるんですか?
周東:ガツガツと「絶対に成功したい」と考えないことですかね。「いいスタートを切ろう」とは考えなくなって、タイミングをしっかり見て、行けると判断したときに行くことだけを心がけていました。いいスタートを切ろうとすればするほど力が入ってしまうので。逆に「普通のスタートさえできれば成功できる」と自分に言い聞かせています。メンタルに余裕を持たせるために、はやる気持ちを抑えている部分はありますね。
――「いいスタートを切るためには、いいスタートを切りたいと一切思わない」とは、まるで禅問答のようですね。メンタルが重要だということは、打撃が好調だと足にもいい効果がある?
周東:これも気持ちの問題なんですが、やっぱり打てているときはスタートもいいんです。しっかり周りも見えるようになります。バッティングと盗塁はかなりリンクしていると思います。
――逆に、盗塁に失敗したときはどうやってメンタルを切り替えているんですか?
周東:失敗しても試合中は引きずらないようにしています。試合が終わってから映像を見て「ここが悪かったんだ」と反省することは必要ですけど、次へ次へと切り替えるようにしています。
――そもそもですが、「どうして自分はこんなに足が速いんだろう」って考えたことはありますか?
一昨年は「失敗できないな」という重圧を強く感じていた
「絶対に盗塁を成功させたい」とは考えないようにしている
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。
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