ニュース

ウイグル族弾圧は許されないが、常に米国に有利な「正義」も地獄だ

中国・新疆ウイグル自治区における綿花収穫で、ウイグル族の強制労働が行われているとして国際的に問題視されるなか、下着大手のグンゼは6月16日に同社製品における新疆綿の使用中止を決定。「強制労働など生産工程における違反は認められなかったが、引き続き調査していく」と説明した
鈴木涼美

※写真はイメージです

どうせ地獄で一踊り

 マーヴィン・ゲイを除いてトップ10はすべて白人男性ボーカルだったローリング・ストーン誌の歴代名盤500選が、昨年大幅にアップデートされて話題を呼んだ。  新たなランキングではローリン・ヒルやプリンスなどのアルバムが新たにトップ10入りし、12年改訂版ではゼロだった女性ボーカルのものは3枚に、白人以外のボーカルは4枚になって、新しい時代にふさわしい、カラフルでフェアでバランスの良いリストに仕上がった。  という見方もできるし、かつて10位以内に6枚も入っていた英国発のアーティストの作品はたった2枚となり、上位は圧倒的に米国人ばっかりになった、という見方もできる。  女性やアフリカ系アーティストが正当な評価を得られるようにすることは全く文句のつけようのない正しい姿勢なのだから、人は総じて納得せざるを得ない。  ただし、米国人のこだわる正しさを信じて従っていくと、気づけば米国に大変有利な条件で戦わされていることはままある。  下着大手のグンゼが、中国・新疆ウイグル自治区産綿花の使用中止を決めた。新疆綿に関してはこれまでも、スウェーデンのH&M社が使用中止を発表し、中国で不買運動が起きるなどアパレル業界を悩ませている。  欧米が問題視するのは中国側によるウイグル族への強制労働で、人権意識の高い都市では不買運動が見られるほか、現在米国では新疆綿製品の実質的な輸入制限にまで発展しており、ユニクロのシャツが輸入を差し止められたことも話題になった。  ちなみに世界の綿花生産量を見ると、トップ3は中・印・米で、価格競争力の高い中国産の使用が相対的に落ちれば、人権運動家と米国の農家は喜ぶ。強制労働やウイグル族の弾圧を非難することはやはり全く文句のつけようのない正しい姿勢なのだから仕方ない。  もっとも、これが米中の貿易戦争の道具に過ぎないというのは多くの専門家も説明するところで、強制労働の所在に関する報告はあるものの、多くのコットンが現在ではまともな手段で生産されているという指摘もある。  ただ、感染力の強い米国産の「正しさ」は侮れないわけで、使用すれば欧米市場に壁ができ、使用しなければ中国マーケットを失うという困難な状況に、アパレル業界は立たされている。  日本の衣料品は9割以上が輸入でまかなわれており、もちろん中国産が圧倒的に多い。中国産のコットンor米国産の正義。中国の不買運動or米国の輸入差し止め。国際的な批判を受けても少数民族への弾圧をやめない国orかつて奴隷として連れてきた黒人たちに警官がいまだに暴力を振るう国。地獄or地獄。  そして板挟みに悩むユニクロや無印を着た私たちが住むのは、経済がすり減り、ブランドも力を失い、ワクチン接種の案内は来ず、政治家は運動会開催に夢中で、ジェンダーギャップ指数もG7で常に最下位のアナザー地獄。  どうせ地獄で死ぬならせめて弾圧される誰かを救い、一つは良いことしたと思って死にたいとも思うが、どうせ地獄で生きるなら安くて着心地の良いコットンの下着に毛皮を羽織ってフォアグラや仔牛肉を食べて生きたいとも思う。 ※週刊SPA!6月22日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

おじさんメモリアル

哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録

週刊SPA!6/29号(6/22発売)

表紙の人/ 比嘉愛未

電子雑誌版も発売中!
詳細・購入はこちらから
※バックナンバーもいつでも買って、すぐ読める!
Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事