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うつを公表して初めて大坂なおみの会見拒否に納得する想像力のなさ

大坂なおみが、テニス四大大会の全仏オープン開幕直前に試合後の記者会見を拒否。当初世論は批判的だったが、その後「’18年の全米オープン以降、長い間うつを患い、対処するのに苦労してきた」と告白。スポーツ選手がよい精神状態でプレーできる環境を整えることこそが重要だとの声が高まっている
鈴木涼美

写真/時事通信社

あなたに有利な証拠として

 日本の公的機関の記者会見の大義名分は、大臣なり知事なりに定期的な情報開示を求め、報道機関が平等に質問できる機会をつくることだが、基本的に記者クラブが主催しているため、閉鎖的になりがちなその構造はかねてから問題とされている。  ただ、一応平等に情報が開示されるその場では、どんな新しい情報が出てきてもトクダネにはならないし、記者個人のモチベーションは低く、個別取材に比べてありがたみも感じない。  そんな、フリーランスからは嫌われ、大手メディア記者からもありがたがられない記者クラブ主催の記者会見が維持されているのは、民主主義社会において公的機関には説明責任があり、公的機関の仕切りではなく、あくまで報道側が主導して情報開示を迫らなければ健全性が損なわれるからだ。  多くの報道機関が質問したい話題の人の記者会見を日本記者クラブなどが開催することもあるが、公的機関以外で開かれる記者会見の多くは、情報を発信したい人が勝手に開くものだ。企業の新製品や事業計画、芸能人の謝罪、映画の製作など、発信したい理由や登場する本人の気分は様々であるが、そこでは基本的に記者に主導権はない。  スポーツ大会時の記者会見なんていうのは、大会主催者がビジネス及びサービスとしてメディアのために提供する機会なわけで、メディアや大衆が、情報開示を迫る類いのものではない。対応は個性豊かであって良いはずだ。  テニスの大坂なおみ選手が全仏オープンで試合後の記者会見を拒否し、結果的に大会自体も棄権した。加えて長くうつに苦しんできたと明かしたことで、会見拒否に罰金を科し、態度を変えない限り参加できなくする可能性まで示唆した大会側は批判に晒されている。  奇妙なのは欧米も含む一部メディアで、会見拒否について当初「会見も仕事だ」とやや批判気味に扱われていたことだ。大坂選手は記者会見について、「自分を疑うような人の前に出たくない」と大きなストレスになっていたことを指摘し、メンタルヘルスを優先するために拒否すると表明していた。  本来、これは一つの対応として十分だが、うつを公表して初めて、多くのメディアが納得したような論調、スポーツ選手のメンタルケアを叫ぶ論調にまとまった。  ’18年の全米オープン決勝で審判にブチギレた大ベテランを冷静に下して以来、米、日本、世界であらゆる切り口で時代の顔として扱われ続けた大坂選手の心の負担が重くなりすぎていたことは全く不思議ではないし、メンタルの問題を公表して世界の意識を変えつつある彼女の態度には頭が下がる。  ただし、うつを公表して初めて納得するようなメディアや大衆であってはならないとも思う。メンタルやセクシュアリティ、家庭の事情や宗教など、公表すれば納得は得やすいが公表はあくまで本人の自由、というプライバシーがある。  道端アンジェリカがファンに肌荒れを揶揄され、肌の持病を公表したとき、揶揄した本人は大恥をかいただろうが、持病の告白をしたからではなく、そもそも肌が汚いなんて書き込みはするべきではない。  非公人の記者対応の自由は病があるかどうかにかかわらず今後保証されるべきだし、メディアや大衆に重要なのは、背後の大きな理由が明らかになったときに、気まずくなるような批判を安易にしない想像力を持つことなのだ。 ※週刊SPA!6月15日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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