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取り調べ中にパンツの中から大麻が…熱血弁護士の奮闘劇<薬物裁判556日傍聴記>

常習性をやんわり否定していく

イラスト/西舘亜矢子

 そこで、弁護士は、被告と薬物の関係にもう一歩踏み込みます。 弁護人「他の薬物は使ったことある?」 被告人「はい」 弁護人「どんなの使った?」 被告人「覚せい剤、LSD、コカイン、エクスタシー、ラッシュなどです」 弁護人「何でも吸ってみた?」 被告人「はい」 弁護人「どうだった?」 被告人「いや、気分が悪くなるだけなんで、興味もわかなかったです」 弁護人「では全部と縁が切れたと言っていいのかな?」 被告人「はい。どれも最初だけっすね」 弁護人「後は、もうない?」 被告人「はい」 弁護人「大麻は何年かにいっぺん、ちょっと吸ってみたくなることなの?」 被告人「はい」 弁護人「あの、そうすると…あっ、そうだ、パイプはどこで買ったの?」 被告人「寮の近くにあるタバコ屋さん」 弁護人「大麻の密売人から買ったというわけではないんですか?」 被告人「はい」 弁護人「大麻を買ってから『じゃあ吸ってみるか』と買ったわけ?」 被告人「はい」 弁護人「いくらでした?」 被告人「1000円くらいでした」 弁護人「じゃあ、やめようと思えば、やめられる?」 被告人「はい」 弁護人「うん。懲りた?」 被告人「はい」 弁護人「うん。どのくらい勾留されています?」 被告人「3ヶ月弱」 弁護人「大麻吸って3ヶ月。割に合わないよな?」 被告人「はい」 「薬物摂取の経験はあるが、それは若さゆえの好奇心で、被告は薬物に近い距離感にいるわけではないし、顔見知りの売人がいるわけでもない」――弁護士は諭すように質問をしながら、常習性をやんわり否定していきます。

再犯に及ぶ可能性は低いと示唆している?

 そして、発端の窃盗事件について。 弁護人「この事件が発覚したのは先ほど検事が読んだ記録のとおりで、窃盗の時に、発覚されたということだけど、どんなことしたの?」 被告人「…」 弁護人「今回の浦和駅のやつね」 被告人「ああ…」 弁護人「スリって書いてあるんだよ。どんなことをやったんですか?」 被告人「寝ている人のカバンから財布をすった」 弁護人「寝ている人のカバンを盗った」 被告人「はい」 弁護人「格別、電車の中で相手からスリ盗るとか、そういう技術を持っているわけじゃないのか?」 被告人「はい」 弁護人「現行犯で捕まっているな?」 被告人「はい」 弁護人「どう思った?」 被告人「……」 弁護人「どう思ったんだ、捕まってみて。バカなことをしたと思っているとかさ」 被告人「何でこんなことしたのかなって…。」 弁護人「うん。当時はいくらくらい持ってた?」 被告人「3万円弱」 弁護人「3万円持っていたんだな。それでも、もうちょっとと思ったわけ?」 被告人「…あんまり覚えていないです」  こちらも手法は同じ。「スリで捕まったとはいえ、どんな手管(悪質性)があるのかと思えば、置き引きをそう表現されてしまっただけ」と。被告に所持金を言わせたのは、困窮した状況にあるわけではなく、生活の不安定さから再犯に及ぶ可能性は低いと示唆しているのでしょうか。
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。
note(https://note.com/so1saito/n/n17794fda4427
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