痴女を身につけるには時間がかかる

「私の演技のド下手さはヤバい」(峰)
川上:でも、AVって一人芝居じゃないですか。男優さんは台詞は言ってくれますけど役者ではないので、自分一人で盛り上げていかなきゃならないし。だから、一般の映画に出た時に一人芝居をやりすぎて、監督に「もっと相手の台詞を聞いて。相手が渡そうとしてるんだからそれを受けて」って演出をされたことがあるんです。そこで新しい感覚を得て、芝居には相手を信じることも大切なんだって知れて、またそれをAVにも活かすみたいな。お芝居ができると、同じような内容でも全く違う作品にできるじゃないですか。私はそれで本数をたくさん出せたんだと思います。
峰:でも、AV監督によっては素人感を大事にしたい人もいるんですよね。私はそれに甘えて棒読みのままだったんです(笑)。
川上:峰さんは、芝居をするのが恥ずかしいと思ったりします?
峰:そういうことじゃなくて、ダンスを含めて体を使った表現すべてが向いてないんだと思いますよ。セックスの演技だけは得意なんですけど、それ以外はダメなんです。それも全部が無意識。芝居って意識的なものだし、痴女モノみたいな頭使うやつは無理でしたね。
川上:言葉攻めが全然できないエピソード、漫画でも描かれてましたね(笑)。確かに、痴女を身に着けるのは時間かかりますよね。

言葉攻めを身に着けるために痴女さんに教えを請うが……
峰:で、習得するころにはもう仕事がなくなっちゃって。私は引退してからのほうがちゃんと痴女を学んだので、プライベートでのほうが痴女を頑張れてますね。今のほうがずっと上手くできるんじゃないかと思います(笑)
川上:女優の息って5年で一回途絶えそうになりますよね。私はそのタイミングで一度、辞めたいと本気で思ったことがあります。

「5年目で一回本気で辞めようと思った」(川上)
峰:あ、そうなんですね。私も5年目で辞めてます。もともと学生時代の間だけって思ってたんですよ。周りが大学を卒業してどんどん就職をし始めて、20代が終わりに近づくあたりで「あれ? 私、職歴ないのに大丈夫?」って焦り始めました。よくよく考えたら、20代後半でもAVに出てる方ってもう辞められないですよ。それか、風俗に流れていくか、お金貯めてる人ならスナック開店するくらい。
川上:あれ? でも、その時代って今より全然ギャラが良かったと聞きますよ。
峰:今に比べれば、ですよ。そんな高級クラブを経営できるほどの額は貰ってなかったと思いますよ。
川上:それ、事務所毎の事情もありますよね。私も5年目くらいまでは全然貰えてなかったですもん。
峰:え? どういうこと?
川上:当時はブラックな事務所に所属してたもので。最初は普通のOLよりはちょっとだけいい給料かな?くらいだったのが、どんどん下がっていって、途中からは、これなら昼職でよくないか?みたいな金額に……。
峰:え、単体女優さんが!?
川上:でも、周りの事情を知らなかったからそれが低いとは思わなかったんですよ。家賃払って体の手入れとかしたらもう全然残らなくて「おかしいなぁ~」とは思ってましたけど。他の同業の女の子の話を聞くようになってから気づきました……。(後編へ続く)
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●峰なゆか
漫画家。女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん 無修正』(全7巻)、『アラサーちゃん』(KADOKAWA)はシリーズ累計70万部超のベストセラーに。『もっとオシャレな人って思われたい!』などエッセイも執筆
●川上奈々美
AV女優、浅草ロック座専属ストリッパー。演技力には定評があり、『下衆の愛』『東京の恋人』『全裸監督』『ゾッキ』など映画出演も多数。2021年4月に、2022年1月を以てAV女優を引退、2月を以てストリッパーを引退することを発表した。今後は俳優業に専念していく
(取材・文/もちづき千代子 撮影/山川修一)