更新日:2021年09月21日 10:10
エンタメ

五輪AV「ヌルリンピック」は4年に一度、僕らの心を照らした

だが、リオ五輪の年に異変が起きた

 そして、5年前、異変が起こった。リオ・オリンピックの時だ。そろそろ富岡から来るかなと予想した時期に、それはしっかりと来た。  そろそろ僕らは中年にさしかかり、あまり人生のイベントがなくなってしまった。そのちょっと前からほとんど報告すべき近況はなくなり、ヌルリンピックに関連した思い出話だけが書かれるようになっていた。あのときは足が痛かったなあとか、担任の顔が真っ赤だったとかそんな話だ。僕たちはいつしか思い出の中に生きるようになっていた。そんな大人になんかなりたくなかったのに。  ただ、リオの年、異変が起こった。  「ヌルリンピックに関して衝撃的な事実がわかりました。僕たちがあの日に見たヌルリンピック、本当は……この続きは東京オリンピックの時に!」  初の予告編だ。めちゃくちゃひっぱりやがる。ヌルリンピックに関して何かの衝撃的な新事実が分かったらしい。なんだろう。いったい何が分かったのだろう。本当はなんだったのだろう。気が気じゃないほどに気になるけど、答えは4年後だ。  ひとつだけ考えられることがある。あの日の担任のヌルリンピックに関する僕が考える新事実だ。あれはどう見ても正規のパッケージだった。いままでは漠然と担任がレンタルビデオ屋で借りてきたものだろうと理解していたが、その場合、正規のパッケージはつかない。だいたいレンタル屋のケースに入れて貸し出される。つまり、あの日、担任が所有していたヌルリンピックは購入したものだ。  当時は、VHSビデオが主流で、さらにエロビデオの単価が高い。たぶん定価は1万円を超えていたと思う。当時は分からなかったけど、ケースを所有しているという事実と定価がめちゃくちゃ高いという事実、その2つから担任はよほど「ヌルリンピック」に入れこんでいたとわかる。それが新事実じゃないだろうか。  その答え合わせが期待できる東京オリンピックの開催年、2020年がやってきた。ついに答えが示されると期待していたけど、みなさんご存じの通り、新型コロナの影響で開催は1年延期された。もしかして4年に一度の間隔なら来るかなと思っていたら、昨年はこなかった。やはりオリンピックが開催されないと来ないらしい。  そして東京オリンピックが開幕。それに合わせるかのように富岡から近況報告が届いた。5年ぶりの頼りだ。5年も引っ張られたのだ。富岡の近況はどうでもよく、5年前の続き、それだけが知りたかった。

3年後、パリでの再会を約束しながら

 「我々が、あの日みたヌルリンピック、最近になって調べてみました。実はあれは樹まり子という伝説的AV女優の作品でした。そして本当のタイトルは『ヌルリンピック』ではなかったのです」  な、なんだってー!!  「本当は「ヌルリンピック禁断五種」というタイトルです。近代五種にひっかけたんでしょうね」  5年間も引っ張ってそれかよ。  「とても希少らしくVHSビデオの入手は困難です。ただ3年後までに必ず入手してみます。入手出来たら、3年後、一緒に鑑賞しましょう。ヌルリンピック禁断五種を」  4年に一度、定期的にやってくるイベントは、誰かにとって目標になるのかもしれない。誰かにとって希望になるのかもしれない。  「じゃあ3年後にパリで」  「パリで」  僕たちはそう約束した。あの日のヌルリンピックがマイルストーンのように僕たちの人生に4年ごとの印をつけていった。それが今回は5年と3年になる。それでも僕らは変わらなかった。気持ちのいい近況報告ができるよう、頑張った部分もあると思う。  とりあえずあと3年、気持ちよく彼と再会し、ヌルリンピック禁断五種を鑑賞できるよう、一日一日を頑張っていこうと思う。  ヌルリンピック。きっとパリでも。テレビのオリンピック中継に向かってそう呟いた。 ロゴ/ヒールちゃん(@heelhell) イラスト/井上菜摘(@natsumi19900325
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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