更新日:2021年09月21日 10:10
エンタメ

サウナに言い伝わる謎の伝説、「69番」に焼き尽くされた僕の話

いよいよ迎えたファン感謝デー。そこで繰り広げられた光景とは

 いよいよファン感謝デーの水曜日を迎えた。サウナの前にはデカデカとのぼりが立っていて「ファン感謝デー」の文字の後ろに流れ星のイラストが描かれていた。これが「星、流れるとき」なのか。  果たして、今日、ここで伝説の69番が復活するのか。それはいったいどんなものなのか。伝説の69番とはなんなのか。そうドキドキしながらカウンターで料金を払い、手続きをする。店員さんからすっと差し出されたロッカーキーを見て驚愕した。 「69番」  で、伝説の69番や。  長老の予言の通り、この星流れるときに復活した。そしてまさか自分に振り分けられることになろうとは。  伝説の69番のロッカーキー、一見すると普通のものに見えるけどよくよく考えると普通のものと大きく違う。この店はリストバンド形式のロッカーキーを採用していて、茶色で樹脂製のリストバンドの中にロッカーキーが収納されるようになっている。使うときは中からニュっと鍵を出して使用する。  ただ、この69番だけは、おそらく誰かがそのリストバンドを壊したのか全く別の形式になっていて、鍵から延びるチェーンの先に髪留めのゴムみたいなものがついているだけだった。さらに黄色いプラスチック製のタグもチェーンでぶら下がっていて、マジックで69と手書きされているものだった。はっきりいってめちゃくちゃ安っぽいしなんか不衛生な感じすらする。客がなくしたか壊したか、それで応急的な措置だからこうなったのだろうけど、あまり気分がいいものではなかった。 「こんなものが伝説の69番か」

ただの汚いリストバンドに拍子抜けした

 良くある話だが、聞くのと見せるのとでは大違いというやつだ。あれだけ常連が大騒ぎしていた伝説の69番、どんなものが出てくるかと思えばこれである。確かに珍しくはあるけど、単に安っぽいだけだ。伝説なんてそんなものだ。    仕方なしにその安っぽい伝説の69番を左手首につけ、洗い場に行く。横に座っていた常連が体を洗いながら「で、伝説の69番」という表情を見せた。確かに一人だけリストバンドではないし、ゴムの部分が蛍光色なのでなかなか目立つ。知っている人から見たら一目瞭然だろう。  湯船に入ったり、休憩したり繰り返し、いよいよサウナへと突入する。やはりファン感謝デーのサウナ内部は凄まじく、座る場所がないほどの混雑具合だった。そのサウナに入った瞬間、中にいた全員の視線が僕の左手首に注がれた。 おっさんは二度死ぬ「あ、あれは伝説の69番……」  みたいな表情を見せる常連。 「だから言ったろ、俺は見たんだ。洗い場で見たんだ。ついに伝説が復活したってな。お前らは信じなかったけど」  みたいな表情を見せる常連。 「星、流れるとき、いにしえのロストナンバーが復活する、か……言い伝え通りになるとはな」  みたいな表情を見せる手下。 「うむ……」  と深く頷くヌシ。もうわけの分からない状態になっていた。伝説の69番を手にした僕の登場にサウナ内が騒然とした(気がする)。そして、人が避けるようになり、なんとなしに僕が座るスペースが形成されていた。「ほら伝説の……」「ああ、あれが……」サウナ内は相変わらず騒然としていた(気がする)が、僕は目を閉じてサウナに集中し始めた。
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サウナ瞑想に入った僕を不意に襲った焼印
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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