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サウナに言い伝わる謎の伝説、「69番」に焼き尽くされた僕の話

サウナ瞑想に入った僕を不意に襲った焼印

 8分ほど経過しただろうか。じっとりと汗も流れ、いよいよ佳境になってきた。このあと水風呂にダイブすると死ぬほど気持ちいいやつだ。ここでのタイミングの見極めは重要だ。早すぎると水風呂の気持ちよさが半減する。遅すぎるとクラクラして水風呂どころではない。ほとんど誤差の許されないシビアな見極めが要求される。 「いまだ!」  完全に見切った。このタイミングしかない。いくぞ水風呂! と立ち上がった瞬間だった。  ジュ  「ぎゃーーーーーーー! あちーーーーー!」  立ち上がった瞬間にギンギンに熱されたロッカーキーのチェーンの部分が肌に触れた。死ぬほど熱い。なるほどなるほど、あの樹脂リストバンドがカギを中にしまい込む構造になっているのはこのためか。剝き出しの金属はサウナ内では凶器にすらなりうる。そう理解するのに十分だった。 「これが伝説の69番の洗礼さ」  みたいな表情を見せる常連。 「みんなこれをやられている。わしなんて火傷の跡がまだ残っとる」  みたいな表情を見せる常連。 「星、流れるとき、いにしえのロストナンバーが復活する。そして不届き者に洗礼を与えるであろう」  みたいな表情を見せる手下。っていうか不届き者って俺か。 「うむ……」  と深く頷くヌシ。もうわけの分からない状態になっていた。左手首には伝説の勇者の紋章のように赤い腫れが残り、これが伝説の洗礼かと理解するしかなかった。

そして大学生によって伝説はあっさり終了

 それから半年後。またファン感謝デー(星、流れるとき)がやってきた。  そこでも伝説の69番が登場し、いきった大学生みたいな男がそれを手にした。我々、常連はサウナ内でワクワクしながらその大学生に洗礼が襲い掛かるのを見届けようとした。それを防ぐ手立てはないからな。きっと悲鳴があがる。  いよいよくるぞ! という段階になって大学生がクルクルッと手拭いで金属部分をカバーして見せた。 「こうすりゃ熱くならないからな。っていうかこんなの分からず火傷するのバカだけだろ」  みたいな表情を見せる大学生。 「伝説が破られた。ついに伝説が破られたのじゃ」  という表情を見せる常連。 「星、流れるとき、伝説は塗り替えられるであろう」  みたいな表情を見せる手下。 「うむ……」  と深く頷くヌシ。 「火傷した俺たちがバカだったんだ」  僕も頷くしかなかった。  こうして69番の伝説は幕を閉じた。今日もサウナ内は伝説を破った大学生の話で持ち切りだ。
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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