ニュース

野党が勝つために、野党支持者よ「大人」になれ<著述家・菅野完氏>

変わらない野党支持者たち

 一方、文字通り十年一日の如く、変わらない人々がいる。野党の皆さんである。いや、もっと厳密に書こう。野党ではない、野党支持者の皆さんである。  政党としての日本共産党はこの2年で大変革を成し遂げた。日本一の老舗政党が老舗政党とは思えぬ柔軟さで全く別の姿になった。もはや志位氏の言動など、往年の自民党のベテラン議員の如く柔軟であり味わい深いものになっている。  立憲民主党も同様。確かに枝野代表の煮えきれない態度に様々な批判はあろう。だが少し考えてほしい。立憲民主党は昨年、国民民主党および社民党と部分合併した。それに伴い、多種多様な人々が党内に流れ込むことになった。政治家はまだしも、党本部の事務職などはさらに苦労が多い。なにせ組織文化の違う三つの政党が部分合流したのである。あたかも第一勧銀・富士銀行・興銀の三行が合併した直後のみずほ銀行のような様相を呈している。  さらに見落とされがちなのは、今我々が目にする「立憲民主党」なる政党は確かに野党第一党ではあるものの、これまで一度も国政選挙を経験したことのない政党であるという点だ。2017年衆院選で生まれた立憲民主党は、昨年の国民民主党との合流の際、法人としては消滅している。  今ある立憲民主党はあの時にできた新法人であり、この新法人は、直近の国政選挙である2019年参院選さえ経験していない。生まれたばかりの組織に、組織文化の違う多種多様な人々を満載しながら、立憲民主党は、左に共産党、右に連合を睨みつつ、全国でいわゆる「野党共闘」のために候補者調整をする必要に迫られていたのだ。難事業であることは間違いあるまい。  しかしこの難事業はなんとかして決着を見た。全国289の小選挙区のうち220の選挙区で野党側の候補者が一本化することとなったのだ。一本化比率は76.12%。民主党政権を産んだ2009年衆院選挙の候補者調整比率よりも高い水準である。定量的に見れば、野党間の選挙協力は目標を達成したというべき水準だ。政党としては、立憲民主党も共産党も、大人になったのだ。  だが、子供のまま、十年一日のごとく、今回の選挙を戦おうとしている人々がいる。共産党や立憲民主党の執行部がそれぞれ己を虚しうし、あえて白黒はっきりつけないことでいわば“なーなー”のうちに協業協議を進めることに「煮えきらない」「はっきりしない」「決断が見えない」と騒ぎ立てる、野党支持者と野党周辺の政界のハイエナたちのような連中のことである。  今回の選挙でも、小池都知事の周辺をはじめ、選挙直前になって新党を結成しようとする動きが複数あった。またぞろ「第三極で有権者の選択肢を増やす」というロジックである。そしてこの種のロジックを振りかざすハイエナのような連中はこの10年ほとんど固定化している。  一般の支持者も同じ。一部ではあろうが「枝野が悪い」「山本太郎が悪い」「共産党が悪い」と、選挙目前になっても騒ぎ立てる不心得な支持者があまりにも多い。せっかく、政党間の協議が“大人ベース”の話で進んでいるにもかかわらず、現場の支持者たちがこうでは、選挙の実務は思いやられる。  実務が滞る選挙はいかに熱気が生まれようと、必ず負ける。このままいけば、いまだに第三極を模索する愚劣な政界ハイエナと子供のような支持者たちのおかげで、この選挙における野党共闘の実はあがらず、野党側の議席は伸び悩むだろう。  有権者は冷静に見ている。  あれだけの激戦であったにもかかわらず、自民党の総裁選の後、自民党から内紛の話など聞こえてこないではないか。それぞれの総裁選の候補者の支援者が他の候補者をいまだに悪様に罵るなどという姿は自民党では見かけないではないか。むしろ自民党は「選挙は選挙、一丸になって頑張ろう」と一致団結を見せているではないか。  翻って野党は、いまだに第三極を模索するハイエナのような連中が跋扈し、支持者同士はそれぞれの党派性に依拠して仲間を背中から撃つことをやめない。  こうした姿を有権者は、冷静に見ている。  衆院解散総選挙はスタートした。泣いても笑っても、10月31日に投開票が行われる。  この分だと、組閣直後に“ご祝儀”を払い忘れた有権者が、「やはりこっちの方が、大人としてマトモだね」と、岸田文雄に遅まきながら“ご祝儀”を手渡すことになるであろうことは、必定だろう。 <初出:月刊日本11月号【菅野完氏】 著述家。’74年生まれ。サラリーマンの傍ら執筆活動を開始。『日本会議の研究』は、第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞受賞
1
2


gekkannipponlogo-300x93

月刊日本2021年11月号

【巻頭インタビュー】議会は民主主義の砦だ 衆議院議長 大島理森
【特集1】傀儡政権の耐えがたい空虚
【特集2】政治と一体化する警察
【特集3】原敬暗殺100年 いま原敬から何を学ぶか


おすすめ記事