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潰された「菅プラン」が持っていた“憲法上の正しさ”<著述家・菅野完氏>

―[月刊日本]―

異様な記者会見

国会議事堂 9月9日に菅総理が行った緊急事態宣言延長に関する記者会見は、異様なものだった。  NHKの中継映像からして、いつもと様子が違う。普段の総理会見では決して映り込むことのないプロンプターが、頻繁に画面に登場するのだ。会見直後から配信が始まった新聞各紙のインターネット記事に添えられた写真も同様。ほぼ全紙が「プロンプターを利用する菅義偉」を被写体としている。  一番顕著(悪質と言うべきか)だったのは産経新聞で、透明アクリル板状のプロンプター越しに、菅総理の顔面をアップで押さえている。これではまるで拘置所で面会を受ける勾留者ではないか。行政上のアナウンスを行う総理の記者会見で、ことさらにプロンプターを映り込ませたり、あるいは産経新聞のようにプロンプター越しに総理を撮影することは、極めて異例。ある種の悪意を感じざるを得ない。

政治家・菅義偉の死

 思えば、菅総理の総裁選不出馬・所謂「フルスペック」での総裁選の実施との決着に行き着いた今回の政局の間ずっと、菅総理は意図せぬ悪意に翻弄されてきた。  その最大の事例が、毎日新聞による8月31日深夜配信の「首相、9月中旬解散意向 党役員人事・内閣改造後」というスクープ記事だろう(紙媒体としての初出は9月1日朝刊)。  このスクープ記事で毎日新聞は「菅義偉首相は自民党役員人事と内閣改造を来週行い、9月中旬に衆院解散に踏み切る意向だ。複数の政権幹部が31日、明らかにした。自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)は衆院選後に先送りする。首相は衆院選の日程を10月5日公示、17日投開票とする案を検討している」と、半ば断定するように書き切っている。  菅総理が総裁選を後ろ倒しにし衆院解散総選挙を先に行うことを模索しているのではないかとの観測は、このスクープ記事が出るずいぶん前から流れていた。事実、報道各社はその観測に基づいて様々な記事を8月中旬に書いている。  しかしこの毎日新聞のスクープ記事は違う。「9月中旬に衆院解散に踏み切る意向だ」「複数の政権幹部が31日明らかにした」との書き振りからは、毎日新聞が本件を記事化するにあたって揺るぎない自信と確たる証拠を押さえている様子が窺える。  だからこそこの記事はネットでの配信直後から燎原の火の如く広まり、さまざまな反応を引き起こした。自民党内では「そんな政治日程は、総理の個利個略だ」との声が高まり、ついに翌日、総理は、「解散する状況にない」と自ら記者会見するのやむなきに追い込まれたのだ。  毎日新聞は新聞として当然の仕事をしたに過ぎない。だが、結果としてこのスクープ記事は、毎日新聞の意図を離れ、菅総理を翻弄していくことになる。  この記事に接した自民党の国会議員たちはたちまち「そんなバカな話があるか!」と騒ぎ始め総理の日程プランを潰そうと躍起になり始めたのだ。そして、毎日新聞に抜かれたメディア他社も、ことさらに声高に「総裁選の後ろ倒し・解散総選挙の先行実施」という菅総理が描いていた日程プランを批判し始めた。その声は、毎日新聞に抜かれた腹いせからか、時間が経つほど大きくなっていく。  かくて、あのスクープからわずか半日で、菅義偉の秘策であった「総裁選の後ろ倒し・解散総選挙の先行実施」プランは撤回を余儀なくされてしまった。  菅総理は自身の延命のために「総裁選の後ろ倒し・解散総選挙の先行実施」というプランを思いついたに過ぎない。そしてそのプランを漏れ聞いた毎日新聞は、自身の職責を果たすためにそれを記事化しただけのことである。  その記事を読んだ自民党の議員たちもまた、自身の延命をかけて菅総理のプランを潰そうと躍起になった。毎日新聞に抜かれたメディア他社もまた、自らの沽券にかけて、毎日新聞が報じるところの総理プランを潰そうと必死になって批判を重ねた。  皆がみな、自分のことだけを考えて動いたに過ぎない。その個々の動きに、特段の悪意はないだろう。  しかし、それぞれが自分のことだけを考えて動いた結果、政権の崩壊、政治家・菅義偉の死という、想定外の結果が出来した。登場人物は誰一人として悪意など持っていないにもかかわらず、気づくとそこに死体が横たわっていた……。あたかもシェイクスピア劇のようではないか。
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