更新日:2021年11月26日 18:20
エンタメ

ストロングゼロは酒ではない…人生だ。愛深き僕の前に立ちふさがった3人の侍たち

決戦の日、2万円を握りしめて向かう

 開店の2時間前に店に行く。僕は200本くらい買う意気込みで2万円ほどを手にして向かった。行ってみると、すでに太極拳をやっていそうな老人が先頭に待機していた。しばらく待つとホスト崩れもやってきた、それからしばらくして巨人の坂本勇人もやってきた。奇しくもストロングゼロ狙いの連中が行列の先頭を固めた形になった。それだけ意気込みが違うということだろう。ほかの酒を狙う連中はせいぜい開店直前くらい。ストロングゼロとはそこまでさせるお酒なのだ。  いよいよ開店が近づいてきた。開店直前になると行列はおおよそ100人くらいになっていた。気分的には福男を決める西宮神社の正月行事みたいだ。  作戦を練る。開店と同時にダッシュをし、一番奥の種類コーナーまで駆け抜ける。けれども、素人は酒類コーナーまでの最短コースであるレジ前を通るだろうけど、プロは違う。ストロングゼロが置かれている場所は化粧品コーナーを横切ったほうが速い。これは前日の下見で実際のタイムを測定してみたので確実だ。たぶん正規ルートを行くと途中で特売品ワゴントラップに引っかかる。つまり、化粧品コースを行けば確実にストロングゼロを手にできる。たぶんこのコースに気付いているやつはいない。いける。いけるぞ。  いよいよ開店だ。もう店のシャッターがへし折れる勢いになっている。民衆は暴動に近いくらいヒートアップしている。たぶん店としてもどうせリニューアル工事するしへし折れてもいい、みたいな気持ちがあったのだろう、普通なら「押さないでください!」みたいな怒号が飛び交うのに、そういうのもなく、かなり雑な感じだった。

おっさん、ライバルたちに伴走する

 扉が開いた。いくぞ!ダッシュだ!  ここで素人はレジ前に行く。けれどもプロストロングゼラーは違う。化粧品コーナーだ!  化粧品コーナーは初日の特売ですべて売り切ったらしく、略奪にあったみたいにすべての棚がカラになっていた。 「クソっ!」  さすが歴戦の猛者どもだ。化粧品コーナーに飛び込んだのは僕だけではなかった。僕と太極拳、ホスト崩れそして坂本勇人だった。さすがこいつらは分かっている。これくらいは当たり前のようにクリアしてくる。  おまけに坂本勇人の足が速い。さすが走攻守そろった名選手だ。めちゃくちゃ速い。そして予想外にホスト崩れも速い。ただ、ホスト崩れは同じストロングゼロ狙いでも普段からダブルグレープフルーツ味派閥なので僕らとは狙いが違う。僕らはあくまでもダブルレモン味を狙っているのでホスト崩れとは競合しない。
次のページ
「カラだ!」
1
2
3
4
5
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事