更新日:2021年11月26日 18:20
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ストロングゼロは酒ではない…人生だ。愛深き僕の前に立ちふさがった3人の侍たち

休業前セールという最大のチャンスが巡ってきた

 以前、それを象徴する事件があった。今日はちょっとその話をしたい。  その衝撃的な張り紙は何の前触れもなく店頭に貼りだされた。 「〇月〇日より店舗リニューアル工事につき1ヶ月間、休業いたします」  いつもストロングゼロを購入している近所の店舗は確かに老朽化が顕著になっていた。周囲にライバルチェーンのドラッグストアもいくつか開店し、苦境を強いられていた。ここいらでリニューアル工事でもして巻き返しを図るか、そういう狙いがあったと思う。  1ヶ月の休業ということはなかなか大掛かりな工事だ。そうなると店舗内の在庫が邪魔になる。運び出してどこかに保管しておくか、それとも同じチェーンの別の店舗に運んで販売するか、いろいろ考えたようなのだけどこの店舗は「ぜんぶ売っちまうか」と考えたらしい。 「店内の商品すべて30%OFF」  すべて3割引きという衝撃の告知がなされたのだ。ドラッグストアは性質上、消費期限が定められた商品が多い。いろいろと運び出したり保管したりする手間を考えたら3割引きでもぜんぶ売ったほうが効率的と考えたようだ。

3割引きはついに酒コーナーにも適用された

 ただし、大混雑を避けるため日ごとにコーナーを区切って実施することになった。初日はビューティーコーナー、2日目は洗濯洗剤コーナー、3日目はお菓子コーナーといった具合だ。僕の記憶が確かならば、医薬品だけは3割引き対象外だったように思う。徐々に3割引きゾーンが侵食していき、その最終日が「酒類コーナー」だった。 「これは戦争になるな」  最終日は大変なことになる。そう思った。目当ての酒が3割引きになるのだ。例えばストロングゼロの350ml缶の場合、だいたい100円前後の値段で販売されている。それが70円くらいで買えるわけだ。もうそれは限界まで買うに決まっている。限界まで張るに決まっている。  ウイスキー派もビール派も、日本酒派もそれぞれが愛飲している酒を狙っているようだった。その最終日が近づくにつれて殺伐とした雰囲気が店舗内に充満するようになった。狙いの酒がどれだけ残っているか、どれくらいの金を持ってくれば限界まで買えるか、前日に下見に行ったら見た顔が何人か下見に来ていたので、みんな同じように考えていたのだと思う。  僕の見た限り、ストロングゼロを狙う連中は3人いたように思う。もちろん、他にもたくさんいるだろうけど下見までしていて、普段から何度か顔を見るサムライは3人だ。一人がホスト崩れっぽい若者、もう一人が太極拳をやっていそうな老人、最後の一人がいつも巨人の坂本勇人と書かれたタオルを持っている男だ。この3人は確実に70円のストロングゼロを狙ってくる。  ついに最終日。酒類が3割引きとなる日がやってきた。そう戦争の日がやってきたのだ。
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決戦の日、2万円を握りしめて向かう
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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