更新日:2021年11月26日 18:20
エンタメ

ストロングゼロは酒ではない…人生だ。愛深き僕の前に立ちふさがった3人の侍たち

「カラだ!」

 SASUKEの第1ステージを攻略するかのように化粧品コーナーを駆け抜け、棚と棚の隙間を縫ってストロングゼロコーナーに到達する。ここで異変が起こった。 「カラだ!」  先頭で到着した坂本勇人が叫んだ。いつもストロングゼロを置いてある棚が綺麗さっぱりにカラになっていた。 「カラだ!」  ホスト崩れも叫んだ。どうやら前日に何者かが定価で買い占めたようで、ダブルレモン味もダブルグレープフルーツ味もきれいさっぱり売り切れていた。 「あっちだ!」  頭の切り替えが早かったのは太極拳だ。常温で置かれている棚がだめなら冷蔵されている棚だ。すぐにキンキンに冷えたやつが飲みたいという需要にこたえるために冷蔵コーナーにも何本かのストロングゼロが置かれている。それを狙って太極拳が機敏に動いた。 「16本しかない!」  遠目でもわかる。ストロングゼロダブルレモン味が4本×4列、16本だ。太極拳が一歩速くストロングゼロに到達した。そこに坂本勇人が続く。さらにホスト崩れまで「冷蔵コーナーにもダブルグレープフルーツはない、完全な売り切れ、ならばダブルレモンに手を伸ばすまでよ」と襲い掛かる。僕は出遅れてしまった。もう完全にダメだ。圧倒的に出遅れた。2時間並んだのに買えないなんて!

4人の関係はストロングなゼロ

 圧倒的に諦めたその瞬間、奇跡が起こった。  最初に到達した太極拳が、スッと4本のストロングゼロを手にしたのだ。それを見た坂本勇人がスッと4本を手に取った。そしてホスト崩れも4本。諦めながら到達した僕の目の前には4本のストロングゼロがあった。  言葉を交わすわけでもない。名前を知っているわけでもない。ただ同じようにストロングゼロを追い求めただけ、僕らの関係性はそれだけ。ゼロといってもいいだろう。 「同じストロングゼロ好きだろ、なら4人で16本なら1人4本だろ」  誰も口にしないけどそんな言葉を交わしたような気がした。自分一人で200本買い占めてやると鼻息が荒かった自分を恥ずかしいと思った。僕らの関係性はゼロなのに、他の何よりも強く、ストロング、そんな気がしたのだ。  4本のストロングゼロを抱えて店を出る。  ストロングゼロ。  強い虚無。    僕たちはそこには存在しないのにそこに強く存在する何かを求めて、この酒を飲んでいる。ストロングゼロとはそんなお酒なのだ。 <ロゴ:ヒールちゃん
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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