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綾野剛『アバランチ』。喫煙シーンも妥協せず描くハードボイルド作品の強さとは

ハードボイルドを演じる役者の資質とは

アバランチ 綾野剛

公式HPより

 10月期の連続ドラマのタイトルで最も難解であろう『アバランチ』は英語で、和訳すると「雪崩」。込められた意味は第6話でやっと分かり始めた。やはりアバランチのメンバーであるハッカー・牧原大志(千葉雄大)が週刊誌記者から「なぜ、アバランチは出来たんだと思いますか?」と尋ねられ、こう答えたからだ。 「時代が彼らを必要としたんじゃないかな」  閉塞した社会において支配者側の悪党を倒すためには、一部の先鋭的な者たちが雪崩を起こし、支配されている無数の人間を覚せいさせるしかない。それによって小さな怒りが結集し、大きくなれば、支配者側の悪党も倒せる。羽生たちは大山の手先たちのふざけた実態をネットで配信している。これも支配されている側を覚せいさせるプロセスの1つなのだろう。  ハードボイルドのドラマが少ないのは、それに向いた役者の数が不足しているせいかもしれない。昭和期には適任者が多かった。たとえば故・渡哲也さん、故・原田芳雄さん、故・萩原健一さんである。生きた時代が熾烈だったことも影響しているはずだが、忘れてはならない存在が故・松田優作さんである。この人は生き方そのものがハードボイルドだった。  ハードボイルド映画の主演作『野獣死すべし』(1980年)の撮影前、頬がこけて見えるようにと上下4本の奥歯を抜いてしまった。役づくりのためだ。この映画の脚本を手掛けた丸山昇一氏(73)から聞いたところによると、背まで縮めようと考え、本気で足の骨を削ろうとしていた。

綾野剛、渡部篤郎はハマリ役

 一方、綾野はどうかというと、現代のハードボイルド界のスターに成り得るはず。甘さと渋さを併せ持ち、どことなく虚無感を漂わせているところがいい。身長1m80cmで手足がスラリと長く、運動神経抜群であるところも適している。肥満体で運動オンチだったら、ハードボイルドはムリだ。  優等生的な役者やアイドル的な役者が多くなったなか、とっぽい(キザで不良じみている)という言葉が似合うところも買える。松田さんもこの形容詞が合っていた。 『アバランチ』を演出する藤井氏が監督した主演映画『ヤクザと家族The Family』(今年1月公開)での悲しき現代ヤクザ役も好評だった。役者がハードボイルド作品により適するようになるのは渋みが増していく40歳以降なので、これからが楽しみだ。  そして、渡部篤郎もうまい人選だった。悪党がお人好しに見えてしまったら、ハードボイルドにならないが、渡部ほどずる賢い人物を演じるのがうまい役者もそういない。2016年のドラマ版『沈まぬ太陽』(WOWOW)や2017年の『犯罪症候群』(東海テレビ、WOWOW共同制作)などでは悪の権化を名演した。渡部が演じる悪党はとことん憎たらしいのが特徴だ。  親しみを感じるような悪党では正義が引き立たない。渡部もまたハードボイルド界にとって貴重な存在にほかならない。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区) <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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