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「俺の脊髄をなんだと思ってるんだ」人は痛みを経て、一つずつ賢くなっていく

ひょんなことで知ってしまったカラカッサの正体

 そう、めちゃくちゃ悪口を書き込まれているカラカッサ、僕のことだった。  カラカッサの動きを追っていくと来店した日と行動が完全に僕と一致していた。確かめるために変な日本語が書かれたTシャツで店に行ったら「今日のカラカッサのシャツみた?」「みたみたなにあれ」と書き込まれてスレッドが盛り上がっていた。これもう確定演出だろ。  さて、僕自身の悪口を死ぬほど書き込まれていたのは悲しいことだけど、それ以上にこの一連の悪口が自分ごとになったことで気になることがある。それがもう一人の嫌われ者、パルペンだ。  僕と喧嘩していたという記述から、どいつのことなのかはだいたいわかる。開店時の行列に横入りしようとして僕に咎められて言い争いになった常連客だ。色黒で大柄、そんな常連客がパルペンと呼ばれて僕と同じくらい嫌われているようだ。そのパルペンの意味が気になりだしてきた。  なんとかパルペンの意味を調べるため、僕の悪口が書き込まれまくっている地獄みたいなスレッドに完全なる赤の他人を装って書き込みをしたりした。 「パルペンってだいたい誰のことかわかるんですけど、どういう意味なんですか。あとカラカッサは話してみるとけっこういいやつですよ」  すぐにレスが付く。 「おまえカラカッサだろ」 「カラカッサ乙」 「カラカッサ死ね」

どんなに長く生きても、この世は知らないことだらけだ

 罵倒で盛り上がる中、親切にも教えてくれる人がいた。 「パルコブラッタ・ペンシルバニカに似ているからそれを省略してパルペンなんよ」  教えてもらってもぜんぜんわからない。なんだよパルコブラッタ・ペンシルバニカって。調べてみると、どうやら外国のゴキブリの種類らしく、画像をみるとちょっと彼のイメージに似ていた。それにしてもめちゃくちゃマニアックだな。知的なニックネームをつけやがる。  結局、僕はカラカッサもパルペンも他人事だとおもっていたので、ひどく嫌われている人もいるもんだと思うだけだった。けれども、カラカッサが自分のことだと知り、それによってはじめてパルコブラッタ・ペンシルバニカというゴキブリの種類に行きついた。そうでなかったらおそらく、一生涯にわたって目にすることがない名称だと思う。  人は自分ごとになってはじめてその本質を知ろうとする。そう考えると身の回りにはまだまだ知らないことが山盛りにあるようだ。どんなに長く生きてきても知らないことだらけ、それを知っていく楽しみがあるのかもしれない。カラカッサはそう思うのだ。  ちなみに、冒頭に登場したグレーチング、僕の人生において聞いたことがない名称といったけど、聞いたことがあった。思い出した。  開店時の行列が云々でパルペンと喧嘩した時に、激昂したパルペンが「てめー、グレーチングで殴るぞ」って怒っていたのだった。その時はグレーチングの意味が分からず、カイザーナックル的な武器かなと思っていたけど、あの時、パルペンはあの格子状の金属で殴るって言っていたんだな。あんなもので殴られたら脊髄を損傷してしまうわ。 <ロゴ:ヒールちゃん>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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