更新日:2022年03月04日 17:29
ニュース

ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー

ミサイル発射演習事故に対する国民の嫌悪感

 ところで、2000年にウクライナ軍がミサイル発射の演習を行った時、事故が起こった。一つのミサイルが想定されていた弾道から外れ、民間マンションに着弾したのだ。幸い死者はいなかったが、その事故に関する情報はすぐ全国に広まった。そしてウクライナ国内世論は、軍に対して非常に批判的になった。  このような事故が起きてしまったことに対して、批判の声が上がるのは当然なことであり、批判それ自体はまったく問題ない。しかし、その批判の内容や軍に対する世論は、その後、おかしい方向に進んでしまった。  普通このような事故が起きたら、軍人の能力や兵器の状態(正常か、不具合か)が問われる。つまり人のミスであれば、責任者の解任や軍人の能力強化が要求される。兵器の不具合によるものであれば、その修理や新しい兵器の導入が世論によって要求されるはずである。言い換えれば、軍の質の改善が国民によって要求されて当然な状況なのだ。  しかし、あの事故が起きた後のウクライナ世論の反応は、そのようなものではなかった。世論の反応は、「軍人が無能で国民を危険にさらすなら、こんな軍はいらない」「民家に当たるかもしれないミサイルを飛ばすな」などといった、軍そのものを否定するようなものであった。  ただでさえ大規模な軍縮が行われ、絶望的に足りない予算でやりくりをしなければならなかった軍隊は、さらに窮屈な立場に置かれ、それ以降は軍事演習もまともにできなくなった。

戦略爆撃機も処分

 他に特に注目すべきなのは、戦略爆撃機の処分だ。独立した時点でウクライナは25機のTu-95と19機のTu-160を所有していた。この戦略爆撃機の航続距離は14000キロメートルであり、主な目的は敵の防空線を通り越して、敵地の奥にあるインフラや軍事施設、産業などを破壊することであった。もちろん、核爆弾も通常爆弾も搭載可能である。このような兵器を持つだけで、かなりの抑止力があるはずだ。  しかし、ウクライナはこの44機の戦略爆撃機をすべて処分した。8機のTu-160と3機のTu-95はロシアに売却され、他はウクライナで解体された。両機の1機ずつはウクライナのポルタワ市の長距離航空機博物館に展示されている。また、中距離重爆撃機のTu-22とTu-22M(航続距離、約3000キロメートル)も合わせて66機もあったが、それらもすべてロシアに売却されたか、解体された。  その他にも、独立した時点でウクライナ空軍は約600機の古いソ連製の戦闘機や爆撃機と、当時にしたらまだ新しい戦闘機MiG-29は220機、Su-27は67機と、爆撃機Su-24は150機もあった。しかし、2013年の時点に残ったのは、MiG-29は72機、Su-27は55機、Su-24は24機のみである。他の航空機(約600機の旧世代のものを含めて)はアジアやアフリカの発展途上国に売却されたか、解体されたのだ。
次のページ
航空巡洋艦ヴァリャーグは中国に売却
1
2
3
4
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択 平成30年10月号』(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。

記事一覧へ
ウクライナ人だから気づいた 日本の危機

沖縄は第二のクリミアになりかねない。「北方領土をどうしたら取り戻せるか」はウクライナに学べ!

おすすめ記事
ハッシュタグ