更新日:2022年03月04日 17:29
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ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー

航空巡洋艦ヴァリャーグは中国に売却

 ウクライナ海軍は独立してから連綿と政府から放置されており、衰退する一方だった。1991年末時点のソ連黒海艦隊は525隻からなっていた。そして、ソ連解体の時点で、黒海艦隊の幹部の多くはウクライナへ忠誠を誓おうと思っていた。しかし、当時のウクライナ政府は強い海軍の形成に興味がなかったので、せっかくの黒海艦隊の将校達の意思を充分に歓迎せずに、彼等をほったらかしにしたのだ。  このようなウクライナ政府の無責任な態度とは対照的に、ロシア政府は黒海艦隊を我が物にしようと、様々な工作を実行していた。このような状況の中、多くの将校の意思が揺らいで、結果としてロシアに忠誠を誓うことを決めた将校は多数となった。そして、黒海艦隊はウクライナとロシアの間で分けることになった。  兵士は、自分の意思で国を選ぶことができたが、船は半分ずつ両国の間に分けることになった。しかし、ロシアは分割が有利に進むようにウクライナに圧力をかけ、結局ロシアは388隻、ウクライナは137隻で分けることになった。しかも、その中で実際の戦闘能力のあった軍艦は32隻しかなかった。だから、ウクライナ海軍というのは、一つの艦隊であるというより、無秩序な船の寄せ集めにすぎないのだ。  当然この状況を改善する動きはまったくなかった。それどころか、残った100隻以上の船も、処分され続ける一方だった。その中で、1998年に未完成の航空巡洋艦ヴァリャーグが中国に売却された件は有名である。中国側が水上カジノにし、軍事的使用はしないと約束したが、ご存知の通り、その後、船が中国で完成されて、今は中国軍の空母、遼寧として稼動している。これはあくまで全体的な流れを象徴している、有名な一例に過ぎない。航空巡洋艦ヴァリャーグと同様に、多くの船が外国に売却された。また、処分された船も多かった。  ウクライナ海軍はいかに情けない状況にあったか、次の傾向から明らかである。航海にも出ず、給料ももらわずにいたウクライナ海軍兵士の多くは堕落し、自分達が所属した船の一部(船丸ごとの時もあった)を切り取って、金属スクラップを買い取る業者に売っていたのだ。  また、ウクライナが持っている唯一の潜水艦もまったく海へ出ずに港で放置されてある。なぜなら、もし運航中に事故が起きたら誰かが責任を取らなければならないので、誰も責任を取りたくない。つまり、ウクライナは海軍がないに等しい状態なのだ。

陸軍も軍縮

 ウクライナ陸軍の軍縮規模も凄まじい。主要兵器はおおよそ、独立した時点の元の数の約十分の一まで減らされた。2013年末時点の兵力は兵隊17万人、戦車650輌、戦闘車両1000輌、大砲1000門であった。さらに、2014年2月、3月の間に、ウクライナ軍の中で装備を揃えていて訓練をしっかり行い、直ぐに戦える部隊はたった6000人しかいないという情報すら、情報空間に飛び交っていた。  この情報の真相は分からないが、それまで軍が置かれた状態を考慮すれば、あり得ない話ではない。独立してからの22年間にわたって、ウクライナ陸軍兵器は処分されたか、外国に売却されていたのだ。買い手は常にあった。旧型ソ連製兵器とはいえ、アジアやアフリカの発展途上国からすればそれなりに強い兵器であったので、注文がたくさんあった。 兵器の輸出自体について、(旧型の場合は特に)まったく異論はない。むしろ大歓迎すべき取引だ。問題は、売却した兵器の代わりに新しい兵器がまったく導入されなかったということだ。独立してから2013年までに、ウクライナは一切、外国から輸入していなかった。  ちなみに、ウクライナで独自の戦車や戦闘車両を製造する工場もあった。しかし、この国内工場にもウクライナ防衛省はほとんど注文しなかった。独立してから、ウクライナの工場が独自で開発した戦車が、何百輌も外国に輸出されたが、防衛省の注文でウクライナ軍に調達された戦車の数はわずか数十輌しかなかった。この数字はすべてを物語っているのではないだろうか。
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軍を覆った予算欠乏と腐敗
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1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択 平成30年10月号』(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。

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