更新日:2022年03月04日 17:29
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ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー

軍を覆った予算欠乏と腐敗

 軍の衰退の大きな原因とは財政困窮だったと言われている。たしかに、独立してからウクライナの防衛予算は激減し、軍は常に金が絶望的に足りなかったのは事実だ。  しかし、金がまったくなかったわけではない。一応、1991年から2013年の間に、ウクライナの防衛予算は年間GDPの1%~1.5%ぐらいだった。当然少ないのだが、ゼロではない。そしてそれとは別に、先述したような兵器の輸出も行っている国営企業の売上額は、防衛予算の約半分に相当する金額に上る年もあった。  つまり、少ないながらも一定額の予算は一応毎年あったのだ。この少ない予算を効率よく使い、兵士の訓練や、既にある兵器の維持と国産新兵器(先述した戦車や戦闘車両)の導入をできる範囲で行えば、ある程度の戦闘能力を保てたはずだ。最も大きな問題とは、この少ない予算であっても軍のために使われなかったということだ。  軍の腐敗や堕落も甚だしいものとなった。軍や防衛省の中で、汚職と賄賂は蔓延し、軍の幹部は任務をほったらかしにし、私腹を肥やすことだけに専念した。防衛予算は大量に横領された。当然、誰も罰せられなかった。  また兵器だけではなく、防衛省が持っていた財産も大量に民間へ売却された。軍事施設や訓練所や演習場などの軍事インフラや土地は大量に売却され、その金額は残った軍の維持や発展に使われたのではなく、軍幹部の懐に収まったのだ。軍隊は完全に軍の上層部が銭儲けするための道具に成り下がってしまった。完全に腐敗した軍隊は、愛国心のある本物の軍人にとって居づらい場所になってしまったので、多くのまともな軍人が退役した。
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択 平成30年10月号』(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。
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