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「クリミア半島はソ連からウクライナへのプレゼント」というウソ

クリミア半島は元々ロシアの領土だったのか

 次は、クリミアの歴史を見てみよう。ロシアによる侵略を正当化しようとする人達はよく「クリミア半島は元々ロシアの領土だった」と言っている。それでは、ごく簡単ではあるが、クリミア半島の歴史を振り返ってみよう。  紀元前七世紀から、クリミア半島の南部には古代ギリシャからの入植者が都市国家を造っていた。  紀元前五世紀~紀元後4世紀の約800年間、クリミア半島の東部は、ギリシャ系のボスポロス王国の中心であった。その間、一時期、ローマ帝国の保護国となっていた。同時に北部はスキタイ族の国家に所属していた時期もあった。  四世紀にはゴート族、五世紀にはフン族に支配されていた。六世紀から九世紀まで、クリミアはビザンツ帝国の一部であった。  十世紀になると、ウクライナの先祖に当たる古代ルーシが台頭し、クリミア半島の一部を支配するようになった。それぞれの支配も完全なものではなく、現地の部族らと通り過ぎる遊牧民との混在状態であった。十三世紀のモンゴル襲来によって、クリミア半島の大部分はモンゴル系国家のジョチ・ウルスに支配されるが、南の沿岸部は一部はビサンツ帝国、一部はイタリアのジェノヴァ共和国の植民地になる。  十五世紀ではクリミアタタール人のクリミアハン国が成立する。クリミアタタール人とは、アジアから渡来したモンゴル人やタタール人と、先住民の諸部族が混血してできた民族である。クリミアハン国はクリミア半島を1783年まで300年以上支配した。  そして1783年にクリミア半島がロシア帝国に併合され、支配は1917年まで続いた。  1918年には、当時、一時期独立していたウクライナに数カ月の間支配される。  その後のロシア内戦時代には、白軍に約2年間支配され、白軍が赤軍に敗北した後はソ連に組み込まれた。  そして1954年に、ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国から、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国へ移譲された。  ソ連崩壊後は、クリミア半島はそのまま独立したウクライナの領土になった。  このように、クリミアは何回も支配者が変わっている。それでは、クリミアは「元々」どこの領土なのか? クリミア半島は「元々」ロシアの領土ではない。ギリシャ人に800年支配され、クリミアタタール人の国家が340年存在したが、どちらも、ロシアが支配していた約200年より遥かに長い。だから、ロシアがクリミア半島領有の主張を歴史に求めるのは、まったく正当性がない。歴史的に支配者が何度も変わった地域に関しては「元々ウチの領土だ」という主張自体がおかしい。「元々」の時期を自分に都合のいい時代に設定すれば、多くの国が「クリミアは元々うちの領土だ」と言えるからである。

民族自決権はその地域の先住民に及ぶもの

 最後にクリミアの人口構成と世論について考えよう。現在のクリミア半島の人口構成とはおおよそ、ロシア人6割、ウクライナ人3割弱、クリミアタタール人は1割である。これを根拠にロシアやロシアの侵略を正当化する人達は、クリミア住民は民族自決権に基づいてロシア帰属を選んだと主張する。  この論理は本当に詭弁の極みである。そもそも、現在の国際関係においては、国境不可侵の原則は民族自決の原則に勝るという慣習がある。  しかし、それをさておいても、ロシア擁護の理屈は通じない。なぜなら、民族自決権というのは、その地域の先住民に及ぶものなのだ。クリミアの場合は、いくつかの先住民の民族があるが、その中で最も数が多いのはクリミアタタール人である。だから民族自決権を使えるとすれば、彼らのみであり、決してロシア人ではない。ロシア人には既にロシア連邦という国があるので、彼らは既に昔から民族自決権を実行している。民族自決権に基づいて、自治や独立を要求できるのは、その地域以外に祖国がない民族のみである。  もちろん、クリミアに住んでいるロシア人はロシアに住む権利がある。その権利を実行する方法は極めて簡単。ロシアへ移住すればいいだけの話なのだ。そうしたいロシア人を止めるつもりはない。ご自由にどうぞ。
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計画的な移住による人口構成の変化
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1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択 平成30年10月号』(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。

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