更新日:2022年03月11日 18:32
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平成生まれにはわからない、本当にあった裏ビデオの怖い話

他の9本も念のため調べてみたが

これはフェイクで、しばらくしたら本編が始まるのかと思い、早送りで再生してみたけど延々と蔵王を紹介されるだけでプツンと映像が終わってしまった。 「蔵王だったな」 「ああ、蔵王だ」 投資家たちの歯切れも悪い。けれどもみんな薄々と感づいていた。俺たちは騙されたのだと。他の9本も調べてみたけれども、富良野だったり広島だったり、日本の観光地を延々と紹介されるビデオたちだった。 当時、こういったチラシによる裏ビデオ通販の多くは詐欺だった。こういったフェイクビデオを送ってくるのならマシな方で、そのまま何も送ってこないパターンもある。最初の1回目はフェイクビデオで、それに1万円を添えて送り返してくれれば本物を送ると言って二段目の詐欺に引っ掛けるパターンもあったのだ。全くの余談だが、この数年後に大学生となった僕は同じように裏ビデオ詐欺によって「さんまのまんま」が録画されたテープが12本送られてきた。そんな時代だった。 「俺たち、騙されたんだな」 「ああ」 和室の窓から見えた空は、なんだか嫌味なくらいに青かった。 「おれ、いつかぜったいに桜樹ルイの裏ビデオを手に入れてみせるよ」 「俺だっていつかは」 「俺も」 投資家たちも口々に決意を述べる。この和室で、それぞれの青春の青が交差するのを感じた。

キーワードだけで往時を懐かしむ元投資家たち

あれから莫大な時間が流れ、現在に至る。僕たちはおっさんとなり、その青さはとうに薄れ、すでに色味はなくなってしまった。そこに届いた謎のメッセージだ。 「桜樹ルイ」 差出人のイニシャルから考えて藤井からだろう。彼が「桜樹ルイさん」と呼ばなくなっている事実に気が付き、この長い年月で彼にも色々なことがあったのだろうと思いを馳せた。 すぐに返事を送る。 「TVおじゃマンボウ」 すぐに返ってくる。 「蔵王」 メッセージからすぐにグループチャットが作られ、あの日の投資家たちが次々と召喚された。 「富良野」 「那須塩原」 「なぜか松本の選んだビデオだけ観光地紹介ではなくカツオ漁の映像」 あの日のキーワードだけを送り合い、僕たちはあの日に返ったように笑いあった。なんでもできると漠然と信じていたあの日に帰ったような気がした。 空はいつだって青い。けれども、おっさんとなった僕たちだって本当はいつまでも青春の青なのかもしれない。僕たちはただ、その青さを忘れているだけなのだ。いつだって取り戻せる。 桜樹ルイさんは今でも僕たちの青春だ。僕らは永遠に青いんだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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