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人のいなくなった家に野生動物が…原発事故から11年でも故郷に帰れない「風下の村の人びと」

人のいなくなった村に、野生動物たちがやってきた

無人となった家で、二ホンカモシカがコタツの脇でくつろいでいた

無人となった家で、二ホンカモシカがコタツの脇でくつろいでいた

 人がいなくなった村には、お腹をすかせた野生動物たちが侵入した。 「関場健司さんと奧さんが住んでいた家には、イノシシが玄関の窓ガラスを壊して中に入りました。家の中には、残された漬け物や乾麺や蜂蜜のビンやペットフードなどが残されていたらしい。  その後、テン、ハクビシン、アライグマ、タヌキ、キツネ、ヒメネズミなどの野生動物が次々とやってきました。さらに、昼間はカラスもやってきた。家の中はイノシシが茶箪笥のかどに泥をこすりつけた跡が残り、押し入れから布団が引き出され、襖は外され倒れていた。障子は紙が上から下まで破られていました。サルが遊んだ跡らしかった」(森住さん)
帰還困難区域の民家は荒れ果てていく。障子が破れ、床の間のある部屋に掲げられていた遺影

帰還困難区域の民家は荒れ果てていく。障子が破れ、床の間のある部屋に掲げられていた遺影

国は「問題は解決した」かのように、除染の進まない村に住民を帰す!?

 あれから11年が過ぎた。
原告団のデモ。津島地区の住民の半数が、国と東電を相手に「故郷を返せ」と裁判に訴えた

原告団のデモ。津島地区の住民の半数が、国と東電を相手に「故郷を返せ」と裁判に訴えた

 津島地区の人々は「ふるさとを返せ」と、国と東電に地区の空間放射線量を事故前の水準に戻す原状回復や慰謝料の支払いなどを求めた集団訴訟を起こしていた。その裁判では昨年7月30日、福島地裁郡山支部(佐々木健二裁判長、本村洋平裁判長代読)が国と東電の責任を認め、住民634人に総額約10億円(1人当たり120万~150万円)を支払うよう命じる判決が出た。しかし、原状回復請求は退けられた。
「特定復興再生拠点」の民家が取り壊された跡

「特定復興再生拠点」の民家が取り壊された跡

 国は2023年をめどに、学校や診療所、保育所、交番などがある津島地区の中心部、約1万ヘクタールの「特定復興再生拠点区域復興再生計画」をすすめている。居住促進ゾーンや、交流ゾーン、農業再生ゾーンなどを作り、住民を帰還させようとしているのだ。しかし、津島地区の7~8割は山林なので除染はできておらず、特定再生復興区域に指定されたのは津島地区全体の1%にも満たない。
「国や東電の情報を鵜呑みにしない。自分たちで測らなければ信じられない」と、住民たちは定期的に地域の放射能測定を行っている

「国や東電の情報を鵜呑みにしない。自分たちで測らなければ信じられない」と、住民たちは定期的に地域の放射能測定を行っている

「そのうち、他の帰還困難区域も同じようなことになるでしょう。除染が終わらないのに『解除』するとは、国の責任放棄です。ふるさとは、お金には換えられない。かけがえのないものを失ってしまった悲しみが11年経った今でも続いている。多くの人の中で、震災の記憶が少しずつ薄れていっていると思います。しかし、いまだに解決されることなく、現在の問題として抱えている人たちがいることを知ってほしいのです」(森住さん) 文/北村尚紀 写真提供/森住卓
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浪江町津島──風下の村の人びと

原発事故から11年たっても故郷に帰れない 国と東電を相手に裁判を闘う住民たち

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