尹錫悦氏が韓国大統領に決定。今後の日韓関係は?
3月9日に投開票が行われた韓国大統領選挙で尹錫悦氏が当選。尹氏は「ひざを突き合わせて取り組む必要がある」と関係改善を進める考えを示した
韓国の美容皮膚科に通い出したのが4年半前。タイの空港でコリアンの男と横入りした/しないで喧嘩になって、隣にいた友人に「これ以上日韓関係悪くしないでよ!」と小突かれたのが2019年8月。
移動の自由の制限という事態を日本が本格的に経験するのに一瞬先駆けて、まず日本政府が、対抗して韓国政府もビザ免除措置の停止を発表したのがちょうど2年前。韓国ドラマ『愛の不時着』が日本でも大ヒットし、リモートワーク中の周囲のアラフォー女が誰が何を言おうとヒョンビンの味方になったのはその直後。
BTSのLAライブのために友人2人が帰国時の隔離覚悟で久しぶりに太平洋を渡ったのが昨年11月。そのBTSがパンデミック以降初めて本国で有人ライブを開いたのは昨日、大統領選の翌日だった。
10年周期で保革政権が交代していた韓国で、パターンを覆す政権交代が起きた。0.7%の僅差となった接戦を制したのは保守系野党「国民の力」の尹錫悦氏で、5年ぶりに保守政権が誕生したことになる。
今回の大統領選は史上稀に見るほどの中傷合戦だった。大きな争点となったのは韓国が直面する不動産価格の高騰問題などだが、政策論議よりも、お互いのスキャンダルの追及が過熱、両者の妻の黒歴史まで中傷の材料となった。
尹氏の妻は過去の経歴詐称で、対抗候補だった李在明氏の妻は公的なクレジットカードを私的な用事に使っていたことで、それぞれ謝罪会見を開くことになった。経歴詐称疑惑にしても妻の問題に翻弄される「妻リスク」にしても、海を隔てたこちら側の誰かや誰かを彷彿とさせるが、どちらの妻もその後は遊説など表舞台には一切姿を見せず、夫婦一緒に投票する光景もなかった。
とまれ「対日外交を国内政治に利用しない」と明言する尹氏のもと、文在寅政権下で経済や安全保障を脅かすほど冷え切った日韓関係の改善を期待する声はヒョンビンの味方たちの間でも高い。
李氏が基本的に文外交の方針を踏襲する考えだったのに対し、もともと検察総長として文政権幹部の捜査を指揮していた尹氏は、一貫して同政権の外交を屈辱的な親中、新北朝鮮路線だと批判しており、米国や日本との関係を優先する姿勢を見せていた。
ただ、スキャンダル合戦だった選挙が必ずしも尹氏の外交姿勢を問うたとは言い難い上に、国会は革新政党が6割を占めるねじれ状態となった。中国に配慮する姿勢だった文政権下で、韓国の対中感情はむしろ悪化したという見方もある。日本企業の資産現金化が迫る元徴用工問題などが劇的な進展を見せることは期待薄だ。
ビザ免除停止の不便を感じる間もなくどこの国も行けなくなっていた状態は解除されつつある。距離的な近さはもちろん、一人当たりで見た経済力もほぼ同水準、化粧品の品番もアイドル人気も欧米に遅れをとるジェンダー格差まで似通った国同士である。露中や北朝鮮など強権的な国と大変ご近所の東アジアで、日韓の連携が揺らげば先行き不透明な情勢はいよいよ危うい。
過去の侵略者側がどれだけそれを望んだとしても、歴史問題は根本的にすっきり解決するものではないが、少なくとも韓国側のエンタメのおかげでここまで密接になった市民レベルの交流が、日本側の姿勢によって阻害されることがあれば、肌荒れを抱えたアラフォーたちがヒョンビンより自国の政治家の味方をすることは一生ない気がする。
※週刊SPA!3月15日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
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