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言葉を失うほどの衝撃をシェアしあうLINEグループ「絶句会」で言葉を失った話

当然のようにボールを投げられた門田さんの困惑

「ねえ、息子さんだってぜんぜん気が付かなかったよねえ」    いやいや、息子さんだと気づく以前に全員が知らない他人だ。そんな話を振られても困る。というか、どんな返答を期待しているんだ。僕は気づきましたよ、前の客が息子さんだってと答えられたほうが怖いだろ。 「どう返答していいのかわからず言葉を失ったわ」  こうして門田さんの報告が終わる。なかなか衝撃的な体験だ。  そしていよいよ、僕が言葉を失った体験を話す番だ。  いちおう、流れに沿って僕も競馬場でのエピソードを記載しておくと、府中で開催された安田記念でトチ狂ってしまい、文字通りの全財産を賭けて敗北、電車代もなく府中から八王子まで歩いて帰ったほどの男だ。 「偶然なんですけど、僕もレジ待ちの行列の話です」  コンビニで売っているホルモン鍋が死ぬほど美味い。冷凍コーナーに売っている銀皿に入った鍋で、弱火でコトコト煮込んで食べる。これがピリ辛で美味い。酒のつまみに最高なのだけど、一皿で400円とまあまあ高価なので、扶桑社からこの連載の原稿料が入った時くらいしか購入できない贅沢品だ。  その日も、ローソンに入店すると一目散に冷凍コーナーに向かった。よかった。一皿だけ残っている。まあまあ人気がある商品なので時間帯によっては品切れになることがあるのだ。  コンビニで買い物かごを使うことは少ない。ましてやホルモン鍋を買うだけなので素手でもってレジ行列に並んでいた。そうなると、冷凍食品なのでまあまあ手が冷たい。それでもレジを待つ間だけだからと我慢しているのだけど、なぜかレジがめちゃくちゃ長蛇の列になっていた。

突如、レジでイキり大学生集団の間に挟まれてしまった僕

 しかも僕の前後がめちゃくちゃイキった大学生集団みたいな連中で、どうやらこれから誰かのアパートで飲み会をするような感じだった。ストロングゼロいっちゃう? とか、今日は死ぬまで飲むぞとか、誰か知り合いの女のコ呼べよ、とか大騒ぎだった。ホント良かったな、俺の知り合いに大学生嫌いの徳さんっておっさんがいるけど、ここに徳さんがいたら怒鳴られているぞ、と言いたくなるほどのイキり具合だった。 「あれ、雪乃じゃん」  行列の先頭の大学生がレジに到達するとそんな声をあげた。どうやら同じ大学の知り合いっぽい女性がバイトをしていたようだ。 「あ、ほんとだ、雪乃じゃん。マスクしていたから気づかなかった」 「マジ!?」 「これから俊介の家で飲み会なんだけどこねえ?」  列に並ぶ面々が騒ぎ出した。どうでもいいから早く買い物してくれ。ホルモン鍋で手が冷たいんだ。 「あれ、今日ってさ、雪乃の誕生日じゃねえ?」  列の後ろの方に並ぶ、大学生グループ内の物知り博士みたいなやつが突如として今日が雪乃の誕生日であることを思い出した。たぶんこいつはグループ全員の誕生日を暗記している。これに大学生のジャリガキどももテンションマックスとなった。 「まじでまじで!?」 「誕生日にバイトとかすごくない?」 「やっぱみんなで祝うからさ、バイト終わったら来いよ」 「ストロングゼロ追加で買っとく?」  雪乃ちゃんはけっこう面倒くさい感じで対応していた。そりゃそうだ。バイト先にこんな友人がきて大騒ぎしていたら迷惑だ。あとで怒られるかもしれない。現にもう一人の店員さんがけっこうきつい感じでこちらを睨んでいた。けれども大学生たちの興奮は収まらない。もしかしたら普段からそういう祝い方をしているのか、突如としてリレーメッセージが始まったのだ。っていうかどうでもいいから早くしてくれ。手が冷たい。
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さらにイキり大学生集団が始めたのは、なんと……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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