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僕が人生で初めて経験した、純粋で聖なる”祈り”のお話

【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

魅惑のオプション聖水大噴火

 自分のために祈るのではなく、誰かのために祈る。それこそが本当の祈りだ。そうすればその祈りはきっと届く。  たしか瀬戸内寂聴さんか誰かがこんなことを言っていたような気がする。  人間というものは利己的なので、とかく自分の欲望に忠実なものだ。何かを願い、祈る行為はたいていの場合、自分の欲望を満足させるために行われるものだ。けれどもそれはあまり良くなくて、人のために祈りなさい、願いなさい、そうすれば届くから、そんな言葉だったように思う。  たしかにその通りなんだろなあと思うのだけど、僕はこの“自分のためではなく他人のために祈る”という行為がよく理解できない。「そんなもの本当にあるの?」って思ってしまうのだ。  例えば、友人が病気になってしまって早く治るように祈ったとしよう。これは間違いなく他人のために祈る行為なのだけど、純粋にそうなのかというと疑問が残る。なぜなら、この祈る行為の中には「病気で苦しんでいる友人を見たくない、悲しいから」という気持ちがあり、悲しい気持ちになりたくないから祈っている可能性があるからだ。他者に向けた祈りであっても突き詰めればそれは自分に対する祈り、慰めなのかもしれないのだ。  誰かが幸せになるように祈る行為も、誰かが無事でいることを祈る行為も、遠くの国に平和が来るように祈る行為も、突き詰めたら“自分の感情”という根っこの部分に行き着き、それらを鎮め、慰めるために祈っている可能性がある。それは純粋な他者のための祈りと言えるだろうか。もちろん、それらは悪いことではないし、たぶん他者のための祈りなんだろうけど、その裏側に、自分への祈りも含まれている認識を持つことは大切なのだ。  だから僕は、本当になんの感情的な見返りもなく、ただただ純粋に他者のために祈る、という行為にリアリティが感じられなかった。そこには必ず自分が含まれる。そう考えていた。そう、少なくともあのときまでは感じられなかったのだ。

よくわからない番号から執拗にかかってくる電話

 あれは数年前のことだったと思う。ある時から突如として僕のスマホに間違い電話がかかってくるようになった。昨今では、みんな電話帳に登録された番号にかけることが多く、いちいち番号をプッシュすることもないので、そうそう間違い電話も起きないと思う。それでも、そのときは日に4件くらいのペースでかかってきた。完全なる異常事態だ。どこかのネット掲示板に番号を晒されたかと思ったほどだった。  よく分からない電話がかかってくるってのは気味が悪いもので、知らない番号からの着信は出ないようにしていたのだけど、あまりに多種多様な番号からかかってくるので根負けして出てみた。 「もしもし?」  僕の問いかけに少しだけ間をおいて相手の男が答えた。 「あの、すいません、今日ってマシュマロちゃんいけますか?」  いきなりマシュマロちゃんと言われても困るし、いけますか? と言われても何にいけるのかが分からない。っていうか、なんだよマシュマロちゃんって。  ここで僕も戸惑いながらも「ばっちりですよ! いけます!」と適当に答えようかとも思ったけど、相手の男があまりに切実な感じなのでやめておいた。  落ち着いて話を聞いてみると、どうやら僕の電話番号とどこかのデリヘルの電話番号が似ているらしく、それで間違い電話がかかってくるようなったようだ。昨今ではスマホで閲覧する風俗サイトから「電話をかける」ボタンを押せばそのままデリヘルに繋がるのでそうそう間違えることはないのだけど、一部の人は電話の履歴が残ることを嫌っているのか、それとも通話料がお安くなるのか、何らかのアプリを経由してダイレクトに電話番号をプッシュしているようだった。その人たちの一部が間違えている感じだった。だからぼちぼちな感じの頻度でかかってきたのだろう。  それこそ、090のところが080になっていたレベルで似ている番号だったので、間違えるのもまあわかるといった感じだった。
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その後も僕とデリヘルを間違えてかかってくる電話は続き……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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