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僕が人生で初めて経験した、純粋で聖なる”祈り”のお話

話を全然聞いてくれない、岡本

「出禁ならそう言ってくださいよ」 「いや、だから間違えてますって」 「ほら! そうやって遠回しに断る。それだったらはっきり言ってくれたほうがいい」 「いや、違うんですよ。本当に違うんですよ」  岡本は引き下がらない。いやはや、とんでもないことになった。 「一方的に出禁にされても困ります。こちらにだって反論はありますから。だから出禁なのかどうかだけでも教えてください」 「ですから、そもそも出禁以前にここはデリヘルの電話ではないので」  岡本は本当に面倒くさい。もうどうしようもないので、その日は原稿の締め切りに追われていて忙しかったこともあって電話を叩き切った。  それから数日して、そろそろデリヘルの常連客に電話番号が浸透したのか、それとも何か対策が施されたのか、間違い電話も少なくなってきたころ、また着信があった。画面には発信者を告げる表示が燦然と輝いている。 「岡本」  岡本だ。  どうせまたかけてくるだろうと岡本の番号を登録しておいたのだ。 「うちはデリヘルじゃありませんよ!」  出るや否や、先制パンチとばかりにお見舞いしてやった。どうせまたメロディアスがどうとか、ごっつあんちゃんこ60分コースとか訳の分からないこといって出禁がどうこう喚くんだろう。つきあってられない。

なぜ岡本が出禁になったのか解せなかったが……

 しかしながら、岡本の言葉は予想外のものだった。 「先日は申し訳ありませんでした。あのあと調べたら電話番号を間違えておりました。ご迷惑おかけしまして誠に申し訳なく思っております」  めちゃくちゃ丁寧じぇねえか。めちゃくちゃ常識人じゃねえか。 「いえいえ、分かっていただけたならいいんですよ」  そう返しつつ、ある疑念が心の中に生まれてきた。岡本のヤツ、こんなに常識人なのになんでデリヘルから出禁にされていると思いこんだのだろうか。  風俗店や女の子に出禁にされるケースとは、やんちゃな迷惑行為を働いて、もう相手にしきれんわとNGにされることが一般的だ。ただ、岡本の口調の感じからして出禁にされるほどの狼藉を働いているとは思えないのだ。 「結局、店は出禁になっていたんですか?」  気になったので質問してみる。 「ええ、正しい電話番号にかけてみてメロディアスちゃんを予約してみたんですけど、予約でいっぱいって言われました。メロディアスちゃんは人気がないので予約でいっぱいになるわけなんかないので、やっぱ出禁ですよね」  さらりとメロディアスちゃんに対して失礼なこと言っているな。そういうとこだぞ、岡本。 「なにか出禁になった心当たりみたいなものはあったんですか?」  深入りせず、ガチャリと電話を切ればいいものの、岡本の出禁の経緯が気になりすぎて質問を重ねてしまった。  普通に考えると、出禁に足る狼藉と考えれば、薬物などの違法行為、本番強要、盗撮、暴力、引き抜き行為などだ。ただ、どれも口調から感じる岡本のイメージからはほど遠い。そこまでの悪行をできるやつではない。
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僕はようやく悟った。「祈り」の真髄を
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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