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僕が人生で初めて経験した、純粋で聖なる”祈り”のお話

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その後も僕とデリヘルを間違えてかかってくる電話は続き……

「今日はマシュマロちゃん何時からいけますか?」 「体験入店の子のこと詳しく知りたいんだけど」 「エリーさん、ずっと休んでいるけど辞めたんですか?」  猛り狂った猛者どもからそんな濃厚な電話がかかってくるのだ。その都度、すいません、うちはデリヘルじゃないんですよ、たぶん番号を間違えているかと、と説明していた。たいていの客は、すいませんといって納得してちょっとバツが悪いかんっじで引き下がってくれた。けれども、たった一人の猛者が、とにかく厄介だった。  たしか平日の昼過ぎくらいにかかってきたんだと思う。見たことない番号だったので、また間違い電話だろうと思った。間違い電話の多くがマシュマロちゃんを指名するものだったので、どうせまた大人気の売れっ子であるマシュマロちゃんを指名する電話だろうなと思った。僕もだいたい事情が分かってきていたので、こんな午後にマシュマロちゃんの予約を取ろうたって甘いぜ、朝イチにかけないと、などと余裕な感じで電話に出た。

猛者・岡本の衝撃的なオーダー

「もしもし?」 「もしもし、岡本と申します」  デリヘルに電話かけてきて開口一番に名乗るやつを始めてみた。いや、見てはいなかった。初めて聞いた、だ。どれだけ礼儀正しいんだ。それだけでも驚きだったのにその後に続いた岡本の言葉も衝撃的だった。 「メロディアスちゃんをごっつあんちゃんこ60分コースで」  メロディアスという源氏名のセンスがすごい。普通なら「メロディちゃん」とかそういう源氏名に留まるだろうに、メロディアスまで行くセンスはなかなかにすごい。センスが良すぎる。  そして「ごっつあんちゃんこ60分コース」という普通に生きていたら一生涯にわたって使わないだろうコース名。いままでコース名を口にする人はいなかったので分からなかったけど、どういうコンセプトの店なんだ、これ。 「すいませんね、うちデリヘルじゃないんですよ。電話番号を間違えていると思いますよ。よく確認してください」  普通の客ならこれで納得して謝罪の言葉などを述べて電話を切り、二度とかけてくることはないのだけど、岡本は違った。 「あーあ、やっぱり俺は出禁かー、あちゃー、もー、出禁なら出禁って言ってくださいよ」  急に半泣きになって反論してきたのだ。最初は何のことかわからず、いきなり出禁がどうこう言われるので本当に岡本は狂っているんだと思って怖くなったのだけど、落ち着いて考えてみると徐々に理解できてきた。  まず、風俗店には利用NGになる客が存在するという点を踏まえたい。いわゆる出禁だとかブラックリストだとかそういうやつだ。店レベルでNGになることもあれば女の子レベルで「この人はNG」となることもある。そんなやつだ。  それを直接、「あんた出禁だから」と言う店もあれば、逆恨みや復讐などを警戒して「いまは予約でいっぱいです」「今日はちょっと臨時休業になりまして」みたいな感じで遠回しに断る店もある。NG客に対してだけはいつかけても「予約でいっぱい」「休み」と返答して実質的な出禁にする措置だ。岡本はそれを警戒していた。  つまり、僕が「電話番号を間違えてますよ」と真実を告げても、「出禁だから遠回しにそういっているんだ」と信じて疑わないのだ。
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話を全然聞いてくれない、岡本
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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