更新日:2022年11月26日 23:38
スポーツ

森保監督が“覚醒した”ドイツ戦。奇跡の逆転劇が起こった背景

後半になってまるで別のチームに

日本代表 堂安律

堂安の同点弾で流れは一気に日本に傾いた

 後半開始と同時に冨安健洋を投入し、布陣を3-4-3に変更する。最終ラインに板倉、吉田、冨安の3人を並べ、守備時にはサイドの酒井と長友が戻り5バックで対応するという戦術だ。また、前線には伊東、前田、鎌田を並べて、攻撃時には3人になる相手に対して同数の状況をつくり出せるようにした。それぞれのマークやタスクがはっきりしたことで、当初の狙いだった前線からプレッシングがうまくはまるようになり守備が安定することになった。  それでも得点を奪えなかった日本は、三苫薫、浅野拓磨、堂安律、南野拓実といった攻撃的な選手を次々と送り込んで攻勢に出る。そして、後半30分にGKノイアーにはじかれたボールを堂安が押し込み同点に。さらに、後半38分には浅野がミラクルシュートを決めて、わずか8分間で逆転してしまった。  後半の戦術変更は、守備面だけでなく攻撃面でも好影響をもたらしていた。前半の布陣は攻撃時には2-4-4で組み立ており、相手の布陣にバッチリとはまり守りやすい状況をつくらせていた。後半の布陣は攻撃時に3-4-3でボールを回しながら組み立てるため、最終ラインで数的に優位な状況をつくり出せていた。また、スピードやドリブルがストロングポイントの選手を投入することで、攻撃時も1対1のデュエルに負けないシチュエーションを演出していた。

なぜ最初からやらなかったのか?に仮説

 それぞれの局面、局面を粘り強く戦い抜いた選手個々の力も素晴らしいが、やはり勝因の最大の理由は戦術変更と言える試合だった。  冷静になると、なぜそれを最初からやらなかったのかという疑問が残る。本田圭佑も解説やTwitterで「前半途中にシステム変更できるプランが欲しい。あの時間帯に日本が修正できるようになれば次のレベルに進める」と発言している。ただ、個人的にはそれができなかった理由があるのではないかと推察している。  それは冨安のコンディションだ。試合終盤には途中出場にもかかわらず座り込む姿を見せた。これについては「パフォーマンス」と試合後に本人がコメントしている。だが、現在は大会期間中で今後も第2戦、第3戦と試合を残しており、各国は情報戦の真っ只中だ。「半分の45分間しかプレーできません」なんて、どの選手もスタッフも発言はしない。
日本代表 森保監督

攻めの姿勢を前面に打ち出し、勝利をもぎ取った森保監督

 前述のとおりドイツの戦術はあらかじめわかっていたことだが、3バックシステムのキープレーヤーとなる冨安のコンディションに不安があり90分間を戦うことが難しかったため、秘策に回す選択にしたのではないだろうか。また、それをどう使うかとシミュレーションしたとき、ハーフタイムでの対応ができない後半開始と同時というタイミングが最も効果的と考えたのだろう。実際にドイツも日本の前半と同様に、対応しきれないまま後半を終えることになった。それらを踏まえると、練られたタイミングも効果的だった戦術変更と言える。 文/川原宏樹 写真/日本雑誌協会
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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