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エロいウサギの”アレ”で深まった、おっさん同士の絆。2023年の新たなはじまり

いきり立つ徳さんの勢いは止まらない

「俺はよ、本当にエロい動画だと思ってダウンロードしたんだよ。ウサギだらけの中でも探してダウンロードしたよ。みんな色白の子がとかかわいい子がとか反応していたからな。そしたら落としたファイルに解凍のパスワードがかかってやがる。ここまでするのは本物だ。掲示板で懇願して解凍パスワード聞いたわけよ。三回ワンって言えば教えてやるっていわれてプライドを捨ててワンワンワンと書いたよ。あれが俺の人生でベスト3に入る情けなさだったね。そこまでして解凍した動画がウサギのウンコよ、俺はあいつを絶対に許さない。まあ、今となっては見つけることもできないけど」  そいつ、目の前にいます。  とんでもないことになった。やはり徳さんは同じ場所にいたし、あのウサギ事変にお怒りの様子だった。  ただ、もう遠い昔のことだ。それに匿名掲示板でのことだ。黙っていればバレるはずがない。俺もウサギ野郎を殺してやりたいっすよと言っておけば意気投合だ。バレるはずはない。けれどもね、それは違うんですよ。そういう生き方はもうやめるべきなんですよ。  過去の自分の罪を認め、贖罪の気持ちをもって生きる。それが2023年の目標であるべきだ。自分がウサギのウンコ犯だったときちんと伝えるべきだ。奇しくも2023年はウサギ年だ。だからなんだという話だけど、これはもうそう生きるしかないのだ。 「徳さん、そのウサギの動画を貼って、3回ワンって言ってみろとか言ってたの、僕ですよ」  そのカミングアウトに徳さんは目を丸くして驚いた。信じていた僕が、もっとも憎むべきウサギ犯であったことに落胆した様子だった。泣いているのか、悔しがっているのか、グラスを握ったまま机につっぷした状態になってしまった。 「聞いてください。僕は確かにウサギのウンコを掲示板に貼りました。結果的に、紳士の社交場を壊すことになったかもしれません。ただ、それを隠して徳さんの信頼を得るのは違うと思ったんです」  徳さんは動かない。 「考えてもみてください。こんなこと黙っていればバレないんです。大昔のことだし証拠があるわけでもないし。でも、僕はあえて告白した。信頼してくれている徳さんに隠し事をしたくなかったんです」  徳さんは動かない。

新年の誓いこそ、たやすく破られるものはない

「2023年はそう生きるって決めたんです。大切な人に隠し事をしない」  僕の言葉に徳さんがピクリと動いた。徳さんはこういうくさいセリフに弱い。ここが勝負どころだ。意を決した僕は叫んだ。 「徳さーん!!!」 「うおおおおおおおおおお」  徳さんが立ち上がる。復活演出だ。 「もう大丈夫だ。そうだよな。正直に言ってくれてありがとう」  徳さんのこういう単純なところが憎めない。 「俺は2023年は人を赦して生きていこうと思う。そうすれば赦されると思うから。ウサギ犯のお前を殺そうと思ったけど赦す。そして一瞬でも殺すと思った俺を赦してくれるか?」  その言葉に僕は深く頷く。 「これからも仲良くしてくれな」  徳さんの言葉に僕がすぐ被せていく。 「仲良くして欲しかったら3回ワンって言ってみろ」 「てめえ、ぶっころすぞ!」  こうして僕たちの新春は過ぎていくのである。  新年はなにかと「今年こそはこう生きる」と誓いを立てがちだ。それはほとんど守られることがないのだけど、そう誓いをたてることこそが大切なのである。皆さんも良いウサギ年を。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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