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「かっこいい生き方」はどこにある? 居酒屋のおっさんが教えてくれた人生訓

おっさんは二度死ぬロゴ_確認用【おっさんは二度死ぬ 2ndseason】

かっこいい人生にならなかった僕たち

 居酒屋で二人で飲んでいるときに相手がトイレに立ってしまったら、とても時間を持て余してしまうものだ。あまりにその時間が長いとどんどん酒がすすんでしまい、一人だけ泥酔という状態に陥ってしまう。  どうやら相手はトイレに行ったまま、便器に座ってスマホゲームに興じているようで、ちょっとやそっとじゃ帰ってこない雰囲気がムンムンに伝わってくる状態になってしまった。なんかスマホゲームの団体戦というか、攻城戦みたいなものがあるとか言っていたから絶対に長くなる。 「だからよ、俺はかっこいい人生ってやつを諦めたんだよ」  呆然としていると、隣からそんなセリフが聞こえてきた。  このまま無言で酒を飲んでいたら絶対に泥酔してしまう。泥酔すると金に関する守備力がゼロになってしまい、飲み代をぜんぶ奢るのはおろか、帰り道に意味不明にSwitch(有機ELモデル)を購入して相手にプレゼントするなど、狼藉の限りを尽くしてしまい、財布の中がカラになってしまう。次の日に呆然とするやつだ。それだけはなんとか防ぐ必要がある。だから隣の会話に聞き耳をたて、酒をセーブすることにした。 「俺はかっこいい人生ってやつを諦めたんだよ」  カウンターの隣に座る二人組は、こちらと同じくおっさんの二人組だ。片方がやや年配の感じで、もう片方がやや年下といったところだろうか。かなりの高確率で競馬場の帰りにこの店に立ち寄ったであろういでたちだった。競馬新聞も持っていたし、胸ポケットに赤ペンが刺さっていた。

人生についてぼやき始めたおっさんの話に耳を側立てると……

 年配のおっさんがやや年下のおっさんに人生訓のような説教を展開しているところだった。めんどうくさいやつだ。できれば年下の立場で受けたくないやつだ。  年齢差のあるおっさん同士はこういった状態に陥りやすい。そこでは年上のおっさんの良く分からない人生訓や、武勇伝を聞かされ、若い時はこんなもんじゃなかったで締めくくられる。けっこうな苦痛にカウントされるであろう無為な時間が流れるものだ。しかしながら、隣のおっさんの人生訓は違っていた。 「俺の人生、かっこいいのは諦めた」 自分はダメだったという入りは珍しい。その独特の導入に一気に心を鷲掴みにされてしまった。本来の話し相手である年下のおっさんも興味津々といった感じだ。 「かっこいい人生ってな、なにも特別なものじゃないんだよ。タレントになったり、賞をとったり、みなから賞賛されたり、大金持ちになったり、それがかっこいい人生ってわけじゃない」  年上のおっさんはしみじみとそう口にした。 「ああいうのはな、写真うつりと一緒だ。写真ってのは一瞬しか切り取らないから写真うつりが良かったり悪かったりって起こるんだ。連続して存在する人間ってやつを写さないからな。一瞬だけ切り取ってかっこいい人生とするのは写真うつりと同じよ」
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おっさんの語る「かっこいい人生」とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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