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おっさんを呼びつけて、最近の若い者への苦言を呈するおっさん。俺たちに言われても……

おっさんは二度死ぬ 2ndシーズン

おっさんのなかの若者

 多くの皆さんは「おっさん」という存在をひとくくりにしていると思う。おっさんは等しくおっさんであり、おっさん以上でもおっさん以下でもない、そう考えているのではないだろうか。  実際にはそんなことはなく、おっさんのなかにも明確にヒエラルキーみたいなものが存在する。例えばイケメンでダンディーなおっさんは、例えおっさんであっても我々のような救いのないおっさんから見るとちょっと違う。スリムなおっさん、太ったおっさん、金のあるおっさん、髪のあるおっさん、家族のあるおっさん、全部ないおっさん、同じおっさんであっても明確なカテゴリみたいなものが存在する。  しかしながら、もっとも衝撃的な事実を述べさせてもらうと、おっさんの中にも「若者」というカテゴリがあるという点だろう。そう、皆さんはお歳を召した男性を等しく「おっさん」だと思ってるかもしれないが、その「おっさん」の中にも「若者」というカテゴリが確かに存在する。  というか、多くのおっさんは、自分と同等かそれ以上の年齢に見える相手を「おっさん」と認識する。逆に自分より若く見える存在はすべて「若者」だ。例えそれが完全無欠におっさんという年齢であろうと、おっさんとしか思えない見た目であろうとも、自分より若そうに見える者はすべて「若者」だ。  このあたりの心理は少し面白くて、多くのおっさんにとって自分は境界線なのだ。おっさんでもないけど若者でもない、おっさんというほどではないけど、さすがに若者は言い過ぎだ、そういった微妙なお年頃であり、それ故に境界線という認識に落ちつく。そして自分より若ければ若者という偏った考えに行き着いてしまう。  今日はそんなおっさんの中の「若者」に関するお話だ。  休日の昼下がり、原稿書きに追われているところに、おっさん仲間からメッセージが届いた。 「ヨシさんからお呼びがかかった」  ヨシさんとは、そのおっさんグループの大御所的な存在であり、長老的な存在でもあった。そのヨシさんが僕と話がしたいと言ってるようなのだ。 「またあれですか?」 「たぶんそう」

おっさんが自分より若いおっさんに説教をする会に呼ばれてしまった

 そして、ヨシさんは自分より若く見える者をすべて等しく「若者」とカテゴライズしている。僕は見紛うことなく、おっさんなわけだけど、ヨシさんの中では「若者」だ。その若者に向けてヨシさんが苦言を呈する会合みたいなものが存在するのだ。 「断るわけにはいきませんか」 「無理だろうね」  仲介役のおっさんはそう言った。ニヤリというスタンプまで張ってきた。以前にも断ったらとても面倒なことになったことを思いだした。拗ねるのだ。それが本当に面倒くさい。ヨシさんはそういう厄介な大御所なのだ。気が重くても会いに行かないわけにはいかない。 「俺はお前ら若者に言いたいわけよ」  居酒屋、熱弁を展開するヨシさんの前に、ヨシさんが若者と定義するものたちが居並ぶ。これらは単にヨシさんが「自分より若そうに見える」というだけで選ばれたおっさんどもで、世間的にはすべて若者の定義から外れるおっさんどもだ。完全無欠のおっさんどもだ。 「お前ら若者はどうしてそういうことするわけ?」  ヨシさんの怒りは、最近になって連続して炎上している回転寿司の件だった。若者が回転寿司で不衛生な行動をとり、それを動画にとってSNSにあげ大炎上している件だ。性善説で成り立っている回転寿司の文化、いいや外食文化を破壊しかねない行為だと批判の対象になっている。回転寿司好きのヨシさんとしてはかなり頭にきているらしい。 「わたくしどもにはわかりませんが」  集められたヨシさん定義の若者のひとりが答える。別の若者も口を開いた。 「目立ちたいのではないでしょうか」  みんな明らかに返答が朧気で他人事だ。そりゃそうだ、若者じゃなくておっさんなのだから。完全に当事者ではない。若者の気持ちを聞かれても困る。それでもヨシさんの苦言は止まらない。
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もっと他の手段で目立てと苦言を呈するおっさん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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