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おっさんを呼びつけて、最近の若い者への苦言を呈するおっさん。俺たちに言われても……

もっと他の手段で目立てと苦言を呈するおっさん

「寿司屋で悪いことして目立ってどうするんだよ、もっと歌とかで目立てよ」  なぜ歌を引き合いに出してきたのか分からないけど、ヨシさんはそこの部分が理解できないらしい。こうなると完全に独演会だ。 「そうですね、若者に会うことがあったら伝えておきます」  もはやそう答えるしかない。僕らは返答の端々に「我々は若者ではないので我々に言われても困る」という主張を織り交ぜるのだけど、ヨシさんは聞く耳を持たない。 「それになんだ、あのチックタックとかいうやつは」  ヨシさんの言葉に、ヨシさんの横にいた子分みたいなおっさん、この会合の仲介役でもあるのだけど、そいつが耳打ちをして訂正する。 「TikTokです」 「そう、その地区特区だよ、なんであんな短い動画ばかりなんだよ。数秒だけ音楽に合わせて踊っているだけじゃねえか。お前ら若者の文化は理解できんよ」  おそらく、ここにいるメンツで日常的にTikTokをみているやつはいない。見るのはJRA-VANとかP-WORLDだ。

ヨシさんが我々を呼んだのは別の目的があった

「長い時間、音楽に合わせて踊っていたら疲れるからじゃないでしょうか」 「時代はショート動画だからじゃないでしょうか」 「私もYoutubeでスロットの動画を見てますけど、ショート動画の方が再生されますからね」  なんとか返答をする面々だが、やはり若者としての当事者意識が足りない。当たり前だ、若者じゃないんだから。  おっさんの「Youtubeでスロットのショート動画を見る」という返答から、ヨシさんを除いて話が盛り上がってしまった。俺も見ちゃう、俺はビッグディッパーの動画の佐々木さんのファン、だとかそういった話で盛り上がった。ヨシさんはその光景をイライラしながら眺めている。気に入らないのだ。  そう、他のメンツはまだヨシさん初心者なので理解できないかもしれないが、ヨシさんがこうして若者と定義するおっさんを集めて苦言を呈するときは、単に文句を言いたいというよりも、それとは別の目的みたいなものがあるのだ。  以前も、パパ活文化にめちゃくちゃ文句を言っていたが、けっきょく何が言いたいのか追及すると、自分のところに来たパパ活の詐欺メールみたいなのに騙されたことが心配なだけだったのだ。  ヨシさんのところに届いたパパ活メールを見てページにアクセスしたところ、「個人情報を保存しました」とスマホに表示された。それで不安になってどうしたらいいのか分からず、とにかく若者に救いを求めようとなったのだ。  つまり、今日の会合も、単に若者の迷惑行為やTikTokの短い動画に文句を言いたいのではなく、それに関連した心配事があるのだ。 「ヨシさん、心配事があるんですよね?」  ヨシさん上級者の僕が良いタイミングで切り出す。ヨシさんは黙って深く頷いた。  色々と話を聞いてみると、どうやらこういうことらしい。  昨今の回転寿司で炎上する若者のことを苦々しく感じ、怒りながら受け止めているけれども、それと同時に一抹の不安みたいなものがヨシさんの胸の奥底にあるのだ。 「もしかしたら、俺の動画も地区特区とかいうのに載せられて炎上するんじゃないか」  ヨシさんはそう主張するのだ。
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動画を撮られていたというヨシさんの信じ難い主張
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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