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おっさんを呼びつけて、最近の若い者への苦言を呈するおっさん。俺たちに言われても……

動画を撮られていたというヨシさんの信じ難い主張

「なにか炎上するようなことしたんですか?」  僕の問いかけにヨシさんは黙って頷く。 「まさかヨシさんも醤油を舐めたりとかそういうのですか」  別の若者(おっさん)が質問する。それには首を横に振って否定した。 「いったい何が原因で不安なんですか、教えてくださいヨシさん」  僕の優しい問いかけにヨシさんがカッと目を見開いて大声を上げる。 「お前が原因だーーー!」  どうやら僕が原因だったらしい。全く身に覚えがない。身に覚えはないけどどういうことか解き明かしていかねばならない。ホント、面倒くさいお人だよ、ヨシさんは。詳しく聞いてみるとこういうことだった。  以前、僕やヨシさんを含むおっさんグループでとある回転寿司に行った時のことだった。その日の宴はたいへん盛り上がり、けっこうな量を食べてしまった。ビールもけっこう飲んだし、デザートまで行っちゃったと思う。合計金額がかなりのものになったと記憶している。 「よっしゃ、一人4000円な」  もちろん割り勘なのだけど、なぜかヨシさんが皆から金を徴収し始めた。ヨシさんは一番年上の大御所でありながら、いつもこうやって率先して金の徴収をしたりするので、なかなか大した男だと思っていた。  さあて、金も払ったし帰りましょうかねと出口に向かうと、田原さんというおっさん仲間が歩きながら突如として近所に出没する下着泥棒を追いかけた話を始めたのだ。田原さんが気分が良いときに話してくれる鉄板級に面白いやつだ。  あまりに下着泥棒が出るからと地区で警戒を強めていたら、本当に下着泥棒が現れ、それを田原さんが追いかけたという話だ。下着泥棒は逃げながら証拠隠滅なのか盗んだ下着を次々と放り投げていった。  田原さんはその下着が路上に放置されるのは良くないと拾いながら追いかけた。結局、下着泥棒には逃げられてしまったのだけど、ポケットが拾った下着でパンパンになっていた。その田原さんを発見した地区の熱血漢みたいな男(あまり顔見知りではなかった)が田原さんを下着泥棒だと思い込み、熱量高く田原さんを捕縛したのだ。

自意識過剰ですよ、ヨシさん

「あいつがすげえ腕を締めあげてくるわけよ、このままいくと折りますよって桜庭みたいに言ってくんのよ」  ここでピークを迎える田原さんの口調が本当に面白く、俺も見たいからこんど話し始めたら動画に撮っておいて、と他のおっさん仲間に依頼されていたのだ。  だから、出口へと向かいながらスマホを構え、ヒートアップする田原さんの動画を撮影していた。どうやらその動画がヨシさん的にダメらしい。 「お前らが出口に向かいながら動画を撮っていただろ、あれにレジで金を払っている俺の姿が写っているはずだ」  すぐに動画を開いて確認する。 「確かに写ってますね。これがどうしたんですか?」 「これを地区特区にあげて俺を炎上させる気だろ」  いや、こんなおっさんがレジで金を払っている姿をTikTokにあげてどうするんだ。 「これはな、おれがみんなから集めた金を使ってこっそりと楽天ポイントを貯めているシーンだ。これで炎上させる気だろ!」  たぶん、そんなもんじゃ炎上しねえよ。  汚いおっさんの後姿が写っているだけなので、姑息に楽天ポイントを貯めていることすら分からない。分かったとしても炎上しない。あと、セコすぎる。 「いいからその動画を消せ!」  けっきょく、ヨシさんは若者に苦言と言いつつも、この動画を消させたかったのだ。回転寿司で割り勘の金集めて楽天ポイントをつけるなんてふてえやろうだと炎上するのが怖かったらしい。  おっさんは常に自分が若者とおっさんの境界線にいると思っている。だから自分より若いものを若者と定義する。そして「最近の若い者は」と呟くのだ。この日の会合もヨシさんの「ホント、最近の若い者は」という言葉でお開きとなった。  この不毛な会合、そもそもの元凶はヨシさんなのだけど、その次に良くないのがヨシさんの横にいる手下みたいな仲介役のやつだ。こいつがもっとヨシさんを諌めたり、丁寧に説明したりすればこのような会合もなくなるというのに、それをしようとしない。面白がっている節すらある。こいつが良くない。こいつが絶対に悪い。  こいつはおっさんなのだけど見た目は僕より若い感じだ。つまり「若者」だ。ほんと、一体全体、最近の若者はどうなっているんだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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