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文章のプロとして、おっさんのラブレターを指導することになった僕は……

おっさんは二度死ぬロゴ_確認用【おっさんは二度死ぬ 2ndシーズン】

おっさんのラブレター

 この日刊SPA!の連載である「おっさんは二度死ぬ」もそうだし、色々な媒体で文章を書くようなような仕事をしていると「文章を書くプロ」みたいな扱いをうけることがある。「さすがプロ」みたいに褒められると悪い気はしない。けれども「プロだからこれくらい軽いでしょ」と言われると、ちょっと違うんだけどな、と思うことがある。  その日、急におっさん軍団に呼び出された僕は、中央線に乗って立川の居酒屋へと向かった。このおっさん軍団は、競馬で全ての財産を失ったおっさんや、競艇で全ての財産を失ったおっさん、競輪で全ての財産を失ったおっさん、熟年離婚で全ての財産を失ったおっさんなど、いわばおっさん界のレアルマドリード、銀河系軍団みたいな趣があった。  そんなスターが集まる会合に僕のような全財産を失っていないおっさんが参加していいものか躊躇したが、とにかく参加するようにという強い要請だったので、おそるおそる参加することにした。 「おー、きたきた。プロが来たぞ」  遅れて到着すると、そのような言葉で出迎えられた。 「やったな、タケさん、文章のプロがきたぞ。なにせあのSPA!に書いてる男だ」  おっさんたちのSPA!に対する信仰は厚い。完全に大御所の作家が来た、みたいな扱いを受けてしまった。SPA!本誌に書いたことなんて一度もないのに。 「実はよう、文章のプロに相談したいことがあるんだ」  タケさんの表情は暗い。事情を聞いてみると、なんでもタケさんは行きつけのコンビニでパートとして働いているやや妙齢のマダムに恋をしているらしく、いろいろと考えた結果、ラブレターを渡すことにしたらしい。  しかしながら、いざ書いてみようとすると文章が思い浮かばない。どうしたものかと仲間に相談したところ、文章を書くプロがいる。あのSPA!に書いてる男だ、と僕に白羽の矢が立った。おっさんのSPA!に対する信仰はとにかく厚い。

ラブレターをいきなり書けと言われても……

 あまりに深刻なタケさんの様子に力になってあげたいところだけど、残念ながらこのムーブには3つくらいおかしい場所がある。  まず、僕は文章を書くプロと言っても、その内容は「おっさんがうんこ漏らした」とかそういったものだ。ラブレターのプロではない。その点が間違っている。  さらに、恋をしているマダムとの関係がどんなものかは分からないが、いきなりラブレターを渡すなんて行為は、相手がよほどタケさんのことを気に入ってない限り悪手でしかない。知らないおっさんからのラブレターはかなりの確率で気味が悪い。いきなりラブレターで一発逆転を狙うのではなく、距離を縮めたりとかそういうことから始めるべきではないか。  そしてこれが一番重要なのだけど、いくら僕が考えて書いたラブレターでもそれは僕の文章でしかない。普通の手紙なら代筆でもいいかもしれないが、やはりラブレターならどんなに拙くてもタケさんの言葉で書くべきだ。  そういった事情を説明し、書くわけにはいかないと説明したのだけどタケさんは引き下がらない。結局、タケさんを含む皆で内容を相談し、それを僕がおかしくない文章に書きなおすということになった。 「最初、なにから書くべきか」  さっそくタケさんのラブレター大作戦が始まった。皆が真剣な顔をして話し合っている。 「好きですって単刀直入に書けばいいだろ」 「それだとまずいだろ、いきなりすぎる」 「プロはどう思う?」  助言を求められた僕は、いきなりラブレターは悪手でしかないと考えているので単刀直入に書くことに否定的だった。
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書き出しをどうすべきか、ああでもないこうでもないと悩む
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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