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バイカーの約8割がおっさんであるという衝撃の事実。もはや共通言語だ

若い頃と違って、生活に余裕ができて……というのがバイクにハマる一番の理由らしい

 ガレージの奥には世紀末覇者が乗るみたいな狂暴そうなバイクが置いてあった。めちゃくちゃカスタムしてあって攻撃力が高そうだ。 「あのバイク凄いですね」 「あれは梅木さんのバイクよ。もうすぐ出てくると思うよ」  どうやらこのガレージのある一軒家の持ち主である梅木さんのバイクらしい。おそらくこのバイク好きの集いのリーダーみたいな人だろう。 「お、クロスカブじゃん」  梅木さんは、一軒家部分とガレージを繋ぐドアから入って来るや否や、僕のクロスカブに駆け寄った。しばらくジッとバイクを眺め続ける。その眼差しは鋭利な刃物のように鋭かった。 「やっぱりバイクはいいな」  梅木さんがポツリと漏らす。本当にバイクが好きなんだと思う。  自己紹介もそこそこに、仲間たちは週末のツーリングの予定を話し合っていた。 「クロちゃんも来るでしょ?」  いつの間にかツーリングに誘われているし、クロスカブなのでクロちゃんという愛称で呼ばれるようになっている。仲良くなるスピードが速すぎる。ホント、バイクはおっさんの共通言語なのだ。 「みなさんはどうしてバイクに乗ろうと思ったんですか?」  どうしてバイク乗りがおっさんばかりになるのか。どうしてバイクがおっさんの共通言語になるのか。その謎を解明すべく、梅木さんをはじめとしたガレージの面々に質問してみた。みんな少し困った顔をして、また腕組みをしてラーメン屋の店主みたいになってしまった。  しばらく考え込んで、輸入バイクに乗っていたおっさんが口を開く。 「まあ、あれだね、若い頃から憧れてはいたけど経済的にも時間的にも余裕ができて好きなことしようってなって、ふっと思い立って免許を取って購入していたな」  やはりこの辺がいちばん大きな理由らしい。特に経済的な理由がかなりの部分を占めるだろう。バイクってお金かかるからね。

「別におっさんと仲良くなりたくないから」という身も蓋もない声

「息子も大きくなって手がかからなくなったしね。自分の時間ができた」  お前、息子がいたんかい。息子がいるのに自分の愛機を息子と称していたのか。  他のメンツも似たような感じで経済的に余裕ができて、時間にも余裕ができて、ふと思い立ってバイクとなったらしい。 「なんなんでしょうね、あの、ふと思い立つの」  誰かが投げかけた疑問の言葉に、リーダーである梅木さんが総括するようにまとめる。 「そこに理由はないのかもな。ふと思い立ってバイクを買う。それはカマキリが死ぬ間際に水辺に向かうようなものだ」  微妙に意味の分からん例えだ。梅木さんなんかちょっとズレている。普通はこんな表現を使わないだろう。あれ、たしかハリガネムシとかいう寄生虫がカマキリに入水行動をとらせるんじゃなかったっけ。バイク購入の例えとしてかなり不適切なんじゃないだろうか。  とにかく、バイクはおっさんたちの共通言語である。お互いにバイクを嗜んでいれば仲良くなるスピードが桁違いだ。おっさんたちのバイクと僕のバイクでは大きさも性能も違うのでツーリングに行っても足手まといになりそうなので断ったが、どうやらこのガレージの仲間には入れてくれるらしい。  ちなみに、梅木さん、さすがリーダーといった感じでメンバーのバイクをまじまじと見ながらアドバイスなどをするのだけど、その間ずっと腕組みで仁王立ち、ラーメン屋の店主みたいになっている。  家も立派だし、バイクも高級そう、かなり裕福な人っぽいので何の仕事をしてるのかきいてみた。 「何軒かのラーメン屋を経営している」  本当にラーメン屋の店主だった。  とにかく、おっさんと仲良くなるにはバイクである。この大発見を知り合いの女性に教えたところ、やはり「別に率先しておっさんと仲良くなりたくない」という回答が返ってきた。彼女の勢いは止まらず、「自らおっさんと仲良くなろうなんて自殺に近い行為」と言い切ったので「まるでハリガネムシに操られて水辺に向かうカマキリのようだね」と返しておいた。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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