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「おっさんは花粉症にならない」は本当か。耳鼻科で繰り広げられたとある“賭け”

花粉症でごったがえしていた耳鼻科の外来に来た、おっさん

1457907_m 今年も、鼻水がジュルジュルでて頭痛がしだしたので、そら花粉症がきたぞとすぐに耳鼻科に赴いた。耳鼻科の待合室は花粉症の人々で混みあっており、100人くらいがひしめいて野戦病院みたいになっていた。みんな同じ時期に発症するのだから当然のことながらこうなるのだ。 「こりゃけっこう待つな」  待合室の椅子に腰かけてテレビを見る。入り口からはひっきりなしに新規の患者がやってくる。中にはこんなに長時間も待てないと判断したのか、診察はいいから薬だけくれと窓口で詰め寄る人などもいた。  そこに一組の夫婦がやってきた。イメージとしては奥さんに連れられてきたおっさんといった感じだ。おっさんは鼻をすする音を常に奏でているので、おそらく花粉症なのだと思う。 「花粉症だと思うんですけど、ちょっと診ていただきたくてですね、できれば薬もいただければと」  と奥さんの方が窓口で説明する。その横でおっさんが憮然としている。 「俺は花粉症じゃない」  でたー、花粉症だと認めないおっさんだ!  おそらく、明らかに花粉症の症状が出ているのに、おっさんが頑として認めないものだから奥さんに連れられて来たのだと思う。 「順番になったらお呼びしますのでお掛けになってお待ちください」  窓口でそう促され、僕の隣の椅子に座る夫婦、やはり、おっさんの方は憮然とした感じだ。ドシンと荒々しい感じで椅子に座った。

花粉症か否かで口論する夫婦

「俺が花粉症のはずないだろ、そんなに繊細じゃない」  みたいに奥さんに文句を言っている。やはり、繊細ではない自分は花粉症にはならないと思っているタイプのおっさんだ。 「花粉症ですよ」 「花粉症じゃない」  おっさんは鼻水をジュルジュルとしながらそう反論する。完全に説得力がない。 「頭も痛いし、これは花粉症じゃなくてただの風邪だ」  おっさんはそう反論する。僕は心の中で「それたぶん副鼻腔炎も併発してますよ。頭痛も花粉症の症状ですよ」とつっこんでおいた。 「花粉症ですよ」 「ちがう、俺は花粉症になんかならない」  夫婦の言い争いが続く。次第におっさんの声も荒々しい感じになっていた。まあ、でもこういった言い争いはよく見られる光景だ。けれども奥さんの一言から様相が一変した。おっさんは声を荒げる感じからして普段からこういった面倒くさいタイプのおっさんなのだろう。おそらく野武士のような豪快さを持った面倒くさい人なのだろう。けれども、たぶん奥さんの方が一枚上手で、このおっさんの扱いを分かっている。 「じゃあ、賭けますか?」 「か、賭ける……?」  おっさんの言葉と、待合室にいた他の面々の心の声が一致した。
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花粉症かどうか賭けに出た奥さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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