結局、数か月の別居期間を経て、遠藤氏の決意の強固さに根負けした夏子氏が離婚届を手に持ってやってきた。わずか一年足らずの婚姻期間だった。 　遠藤氏は話し終えたあと、「最近知り合った元嫁の地元の人から、妙な話を聞きまして」と深刻そうに語った。 「あの家族（岩井家）は地元でも有名な仲良し家族で、昔はかなり裕福だったらしいんですね。どうもその世代の誰かが都会で事業を展開しようとして負債を抱え、それ以来はひっそりと地元で暮らしているそうなんですが。 　義父の不倫についても地元で噂になったことはないし、むしろ『毎日家に帰っていたはずだし、子煩悩で有名だったけど』と怪訝そうにしていました。 　地元では名家で、『東京から婿養子をとる』と吹聴していた時期もあるんだとか。だから私が挨拶に行ったとき、地元は『本当に東京モンがきた。それも御曹司だ』と騒いでいたらしいです」 　夏子氏やその家族が自らの生い立ちを創作していたとしたら、冒頭の遠藤氏の言うように、「何が目的だったのか」という話になる。 「財産目当てということはないと思います。実際、離婚に際して慰謝料なども一銭も払っていません。慰謝すべきこともないですし。 　ただ考えられるのは、こちらの親戚をすべて断ち切って、地元に連れて帰りたかったのかもしれません。少なくとも義両親はそれを望んでいたように思います。一度、会話のなかで同居についての考えを聞かれ、自分が土地を離れる意向がないことを知ると、明らかにテンションが下がっていました。そう考えれば、『東京からの婿養子』に昔から執着していたという証言とも一致します」