更新日:2023年06月20日 01:08
恋愛・結婚

「薬漬けの母」「愛人宅に入り浸る父」…複雑な家庭環境で育った女性と結婚した結果

義父母は「意外と普通の人だった」

 生い立ちを話したあと、夏子氏は絞り出すように声を発したという。 「夏子は『武士とは家柄も違えば、家族の温かさも違う』と泣いていました。相手のつらい背景に思いを馳せずに舞い上がってプロポーズした自分が身勝手に思えて、落ち込みました」    “夏子を救えるのは、自分だけ”――悔恨の念はそのまま遠藤氏を行動に駆り立てた。ほどなくして婚姻届を提出。その前に挨拶で出向いた岩井家の印象をこう振り返る。 「意外と普通の人たちだなと思いました。旦那は10年以上も不倫相手の家から帰ってこなかったというのに、お義母さんは『そんな仕打ちされてもネタにせんとやってられん』と公言してオープンでしたし、お義父さんも聞いていた話よりだいぶ穏やかな印象でした。ユーモアのある、いい家族にみえました」

誇らしさと妬ましさを同時に抱えている?

 だが違和感もなかったわけではない。 「自虐が多いというか、自分たちを卑下する物言いが多いのは気になりました。『東京から来たら想像もできへん田舎やろ?』とか『うちは地方のしがない公務員なんよ』みたいな、常に東京やエリート階層と比べて自分たちがどうかをすごく気にしているようでした。大学時代を東京で過ごした夏子に対しても、どこか誇らしさと妬ましさを同時に抱えているような接し方でした」  遠藤氏自身、一度だけ不思議な体験をした。 「夏子の実家に行ったときの話です。『こんな田舎やけど、ちょっとした有名人もおるもんやで。昔、面倒をみとってな』と、義母が誰もが知っている著名人の名前をあげました。半信半疑で相槌を打っていると、会わせてくれるというのです」  だがそれは期待通りの対面ではなかった。 「その著名人とされる方は家の奥にいて、僕らは玄関先だけで挨拶でした。遠すぎて、全然誰なのかわからないんですよ。一応、奥から『どうも、〇〇です』と聞こえるんですが、本人確認が一切できない。本人だったのかも謎ですし、もしそうじゃないなら、何のためにそんな大掛かりな嘘をついたのかもわかりません」  思い返せば不審な点は多いが、当時は夏子氏のこんな言葉で救われたという。 「私が夏子の両親と会うと、いつも彼女は『武士があんなに関係の悪かった私たちの家族を治してくれた。武士は家族関係のリフォーム業者や』と喜んでいました。家族と仲良くするのは当たり前だと思っているので、苦にはなりませんでした。役に立ててよかったと素直に思っていましたね」
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勝手に退職、引きこもって家事もせず…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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