ゲーム依存は「脳にいいのか、悪いのか」脳内科医の見解は?
スマホ、家庭用ゲーム機。ハードは何であれ、熱中するあまりついつい時間が経つのも忘れてのめり込んでしまうのがゲーム。「勉強や仕事とは別の集中力を維持できるし、脳は活性化してるんじゃ」なんて考えが頭をかすめることもしばしだが……。脳のMRI画像を使って1万人以上の脳を見てきた脳内科医・加藤俊徳氏の見解は?
本記事は『一生成長する大人脳』より一部抜粋したものです。
コロナ禍でオンライン授業になったり、テレワークになったりして、家にいる時間が長くなり、スマホやタブレットでゲームをする時間が格段に増えた、という人も多いでしょう。
ゲームをするときは、目を凝らして画面を見て両手を動かしますので、視覚系脳番地と理解系脳番地の一部と手が使われます。そのため、目や手を同時に使うことがめったにない、という人にとってゲームは脳へのいい刺激になるでしょう。
しかし、ゲームへの過度な依存は、その程度のメリットでは補えないほど、脳の成長に悪い影響を与えます。その理由はおもに、次のような点です。
・ゲーム依存の人では、限定的な脳番地しか使っていないことがほとんど。
・依存性により、ほかのことをするための脳の活動時間が削られてしまう。
・画面と目の距離が近く、眼球が固定されて、動かさない。
・猫背で座りっぱなしで、下半身に対する注意が乏しくなる。
・体を動かさないため、抗重力筋が弱くなり覇気が乏しくなる。
・自己認知が乏しくなり、自分の身体への意識が薄くなる。
姿勢が悪くなるとか、運動不足・寝不足になるといった悪影響はあえて説明する必要はないでしょう。重要なのは「限定的な脳番地しか使わない」ということ、そして、「依存性がある」ということです。
ゲームをしているときも、脳は使われています。しかし、使われる場所は極めて限定的です。どれほど、ゲームのつくりが複雑であったとしても、やっていることは「プログラミングされた仕組みを動かす」という単純操作であることに変わりはありません。
目を使ってはいるものの、スマホの場合なら約100平方センチメートルほどの小さな画面と目の距離が近いため、眼球運動はほとんど起こりません。むしろ、ゲーム中は眼球を固定して画面を凝視するため、ゲーム後に、文字や周囲を注視する力が残りません。ゲーム依存になると、ゲーム中に注視力を使い果たし、ゲームをしていない間は注視力が散漫になるという悪循環が形成されます。
眼球を動かす筋肉が鍛えられると、自ずと視覚系脳番地の情報処理が進み、運動系脳番地との連携が進むのですが、ゲーム依存による悪循環に陥ることで、眼球を動かす前頭葉の視覚系脳番地の強化は望めません。
もちろん、座りっぱなしで体を動かさないので、運動系番地への刺激はほとんどなし。8つの脳番地すべてをある程度使いこなしてないと、脳の働きは弱まります。
ゲームばかりしているとゲームをしていない時間も脳と行動が支配され、間違いなく脳番地の成長が阻害されます。加えて、ゲームは視覚系ワーキングメモリを著しく使うので、脳の一部しか使われなくとも、実感として脳疲労を感じやすくなります。
本来、使っていない大部分の脳番地は脳疲労を起こしていないのに、脳の一部が激しく使われると、疲労実感と実際の脳疲労との間に大きなズレが生まれます。すなわち、ゲーム依存の人は、自分の脳に騙されやすいということ。ゲームに勝っても自分の脳に負けるという滑稽な現象が起こるのです。
また、ゲームは基本的にパターン化されています。前頭葉を使った判断機能もパターン化して慣れてしまうため、あまり使われなくなります。情報量が多いように見えて、脳の処理機能にとってはそれほど新鮮な刺激ではありません。
ゲームの内容にもよりますが、「ゲームをやりたい!やりたい!」と興奮しているのに、新鮮な情報の刺激はなく、情報を集めているというよりも、コントローラーボタンを押して情報を処理しているだけなのです。情報操作をしているのに脳の成長が限定的で、むしろ、ゲームで使わない脳番地に成長させない抑制をかけている。それがゲーム依存なのです。
ここまで読んで、「やっぱり、子どものゲームもほどほどにさせないと」と思ったかもしれませんが、これはゲームに限りません。電車の中、食事をしながら、歩きながらなど、片時もスマホを手放せない人がいます。こうした人もゲーム依存と同じ状態です。SNSを見続け、ネットの世界を放浪してばかりいると、脳の覚醒は確実に落ちます。
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