更新日:2023年09月15日 18:38
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ナチスを支持した「偉大な哲学者」の決定的な“間違い”とは何だったのか…マンガですっきり解説

ハンナ・アーレントが感じたハイデガーの失敗

『まんが!100分de名著 ハイデガー 存在と時間』

※画像はイメージです(以下同)

 20世紀を代表する哲学者であり、全体主義の恐ろしさを説いたハイデガーだが、実は彼は後年、ナチスに加担した人物としても有名だ。  師匠であるフッサールをはじめ、弟子にもハンナ・アーレントやハンス・ヨナスなど、彼の周辺にはユダヤ人が大勢いたにもにもかかわらず、なぜ、当代一の哲学者がナチスに加担してしまったのか。  この疑問は、アーレントとヨナスという二人の弟子にとって、戦後の課題となり、研究が進められていった。 『まんが!100分de名著 ハイデガー 存在と時間』の監修を勤めた哲学者・戸谷洋志さんはこう語る。 「第二次世界大戦中、フランスを経由してアメリカへ亡命したアーレントは、ハイデガーの『死への先駆』という概念が、全体主義へと人々を向かわせる傾向と関係があると考えました。  ハイデガーは『存在と時間』のなかで、人間は世間のなかにいる限り非本来的であり、自分の本来の生き方を取り戻すには、自分自身の死と向かい合わなければならない、と訴えました。  その際、ハイデガーは、人間が他者との関係から切り離され、孤独にならなければならないと考えていました。つまり、孤独こそが人間のより望ましい姿なのであり、他者との関係はそれを濁らせるものだ、と語られたのです」  ただ、アーレントは、孤独をよしとする考え方は、かえって人々を単一の集団に飲み込まれやすくすると考えた。  なぜなら、他者とかかわるからこそ、私たちは一人一人が別の存在であり、かけがえのない個性を持っていることを知るからだ。 『まんが!100分de名著 ハイデガー 存在と時間』「主著『人間の条件』のなかで、彼女はこうした人間の多様さを、『複数性』という概念で説明します。  人々の個性は、決して孤独のなかで得られるものではなく、他者の前で自分の意見を語り、他者とともに行動することで、初めて姿を現すのです。  彼女はそうした営みのうちに、政治のあるべき姿としての公共性が立ち現れると考えました。  反対に、こうした複数性を否定し、人間を単一の存在として支配しようとする思想が、全体主義にほかならないと気が付いたのです」

みんながそうしているから仕方ないと考えることで、責任を逃れる

『まんが!100分de名著 ハイデガー 存在と時間』 一方、弟子のひとりであるヨナスは、パレスチナを経由してアメリカへ渡り、ハイデガーの「決意性」という概念に問題を見いだした。  決意性とは、『存在と時間』の最重要概念の一つであり、「良心の呼び声」に耳を傾けることによる本来性の回復を意味する。 「人間は、世間のなかで生きているときには、空気を読んで『みんな』に従って生きています。  その状況では、自分が何をしても、それは『みんながそうしているのだから仕方ない』というロジックで、自分の責任を免れることができます。そのとき人間は無責任になるのです。  しかし、良心の声に耳を傾けることを決意し、そうした無責任さに陥るまいとする人は、自分の人生を自分の人生として引き受けることができます。ハイデガーはそこに、人間の本来の生き方を見いだしました」
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「良心」がハイデガーにもたらした落とし穴
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まんが! 100分de名著 ハイデガー 存在と時間

二十世紀最大の哲学書『存在と時間』がまんがでわかる!

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