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皇位継承と男女平等は無関係だ/倉山満

なぜ男の天皇が継ぐことになっているのか

 では誰もが思う疑問、その二。なぜ男の天皇が継ぐことになっているのか。これの理由は簡単で、男は子供が産めないからだ。また、現代の医療技術でも絶対に子供を産める技術が無いことも、関係してくる。  既に述べたように、天皇の世襲には合理性があったし、今は世界で唯一無二の伝統である。この世襲を続けるために、父から子へと継承する男系継承と、母から娘へと継承する女系継承、どちらが合理的か。仮に女系継承をしようとしたら、女帝は天皇の仕事とお世継ぎづくりの両方をしなければならなくなる。その際、男の側室などお世継ぎづくりに何の関係もない役立たずだ。

皇位継承の安定において万能の方法論はない

 前近代において、女性の側室は皇位継承に大いに役に立った。幼児死亡率が高かった時代、子供が生まれても無事に育つとは限らない。女性の役割は大きかったので世襲が可能になり、皇統は続いてきた。医療が極端に発達し、幼児死亡率が激減した近代、側室は前近代の遺物となり皇室においても廃止された。  俗に、「側室制度がないと男系継承は不可能だ」「いや、宮家が三~四家あれば計算上大丈夫だ」などと議論が戦わされているが、私はどちらにも与さない。側室が何人いようと、宮家が何家あろうと、子供が産まれなければ終わりなのだ。現に「40年間1人も男の子が生まれない」という計算上は天文学的な数字が現実となり、皇室は危機に陥ったばかりではないか。これは皇位継承権を女系に拡大しても同じ。どの制度も相対的安定にすぎず、「これをやっておけば大丈夫」などという万能の方法論は無い。

多くの日本人は女性天皇と女系天皇の区別もついていない

 絶対に子供が生まれる技術も無いのに続いてきた皇室を、今後も守っていきたいか否か、これは価値観の問題だ。人々が大切にしたいものを壊したい感性の持ち主に、「今までの伝統を守るべきだ」と説いても、何の意味もないだろう。その時々の日本人に「皇室のこれまでの歴史を守りたい」との心を涵養(かんよう)するしかない。  そもそも、多くの日本人は女性天皇(女帝)と絶対にやってはいけない女系天皇の区別もついていない。そのような人たちの多数決で皇位継承のあり方を決める訳にはいかない。正しい知識の普及は重要で、疑問に答えるのが専門家の義務だ。  近代になってから、正式に成文法で女帝は禁止されたが、絶対にやってはいけない訳ではないし、必要があれば法など変えればよい。女帝とは女性の皇族が天皇になることである。歴代八方十代(重祚と言って、二回なった人が二人いる)の先例がある。完全な権力闘争の末に位についた奈良時代の称徳天皇以外は、全員が中継ぎだ。
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女帝は全員が未亡人か生涯独身だ。単なる一般国民の男を皇族にした例は一度もない
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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