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「俺は警視総監の友達だぞ」現役Gメンが振り返る“万引き犯の苦しい言い訳”

危害を加えてくるのは「100人に1人くらい」

「商品を盗んで店外まで出たのを確認して、声を掛けました。相手は20代くらいの男性で、筋骨隆々、上背は190センチくらいでしょうか。深く踏み込まずに声掛けをするように心がけているのですが、あっという間に間合いを詰められ、胸倉をぐっと掴まれました。耳元で『あぁ、殺すぞお前』と怒鳴られ、私が怯んだすきに相手は逃げました。しばらくは鼓動が速いままでしたね。  逆に、腰の曲がったお婆ちゃんだからと油断したら、指を全力で噛まれて激痛が走ったこともあります。“窮鼠猫を噛む”と言いますから、どんな年齢の人でも追い込まれたら脅威になり得ます」  2021年11月30日には東京都八王子市のスーパーマーケットにおいて、万引きを咎めたGメンが刃物で胸を刺され重傷を負っている。改めて万引きGメンの業務は危険が伴うものであることを実感させられる。 「あくまで私個人の感覚ですが、万引きがバレたときにさっきの例のように直接的に危害を加えてくる人間は、100人いたら1人くらいだと思います。たいていの人はおとなしくこちらの誘導に従います。ただ、どんな手を使ってでも逃れようとする人種は必ずいて、その方法は暴力だけとは限りません」

「見逃してくれたら」とスカートを捲り上げた

 悪知恵を働かせて罪を逃れようとする者たちの執着は想像以上に強い。小林氏は長いキャリアのなかで、幅広いタイプの万引き犯と渡り合ってきた。取り逃がしてしまうケースもわずかながらにあるという。 「よく見かける手口は、“錯誤”を使う方法です。たとえば家から持ってきた電球と商品を見比べていたら、間違えて商品を鞄に入れてしまった……という要領ですね。故意ではなく過失なんだ、という主張をして、罪と認めない人は結構います。そのために小道具まで用意するわけですから、周到です。まだGメンを始めた頃、この手口と思われる犯人に声を掛けることができませんでした。  印象に残っているのは、『見逃してくれたら』とスカートを捲り上げた女子高生です。何をし始めるのかとフリーズしてしまい、その隙に逃げられてしまいました。漫画やドラマでそういうシーンがあった気がしますが、まさか実際にやる子がいるとは思いませんでした」
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痴漢扱いされて羽交い絞めに…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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