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「俺は警視総監の友達だぞ」現役Gメンが振り返る“万引き犯の苦しい言い訳”

痴漢扱いされて羽交い絞めに…

 万引き犯には少なくとも犯罪者の自覚があろうが、ふてぶてしくも人を犯罪者に仕立て上げる人間もいる。 「あるショッピングモールで警備にあたっていたとき、万引きをした女性と問答になりました。私は身体には触れていないのですが、逃げる素振りを見せたので追いました。すると女性は走りながら『あの人痴漢です、助けてください。追われています』と叫び、私は複数の通行人から羽交い絞めに……。  身体にものすごい重みが乗って身動きが取れず、しばらく息もできませんでした。結局、信じてもらうのに時間を要し、やっと誤解が解けたころには当然犯人は逃走してしまっていました。通行人も善意で取り押さえたのだと思いますが、さすがにばつが悪そうにしていました」

同じ人間として接することが大切

 万引き犯と対峙するときに、小林氏には大切にしている矜持がある。 「万引きというのは絶対に許される行為ではありません。真面目に商売をしている人間に対する冒涜であり、どんな理由があっても正当化することは無理でしょう。  ただ、声を掛けて店のバックヤードに連れていくときには、なるべく威圧しない態度で接することが大事だと思います。万引き犯に人生がうまくいっている人はいません。身の周りとか世の中に対して不満を抱えている人も多いでしょう。自分がやっていることが正しくないことも自分がよく知っているはずです。  そんな精神状態の人に高圧的な距離の詰め方をすれば、刺激してしまうだけです。私たちの目的は万引きから店を守ることであって、万引きをした人に説教をしたり、誰もが知る正論を振りかざすことではないと思います。あくまで同じ人間として接することが大切ですよね」  人の醜悪さにじかに触れ続けてきた小林氏の前向きな言葉に、少し救われる気持ちになる。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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