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誰も聴いていない「地獄のオンライン会議」で起きたカオス。焦った司会者は…

焦った司会者がついに奇策をとる

「他に質疑はありますでしょうか」 司会者の言葉がどんどん小さくなっていく。かなり気まずい時間が流れる。 そこで異常が起こった。あまりに時間を持て余したのか、司会者がちょっと開き直って声を大きくし、雄弁と語り始めたのだ。 「わたくし、最近、50インチのテレビを買いまして……」 講演会と関係ない近況を話し出した。 「なぜか、テレビの上に飼い猫が乗ろうとするんですよ。前のテレビはそうでもなかったのに。でも、液晶テレビって薄いでしょ、バランスを崩して乗れないんですよ」 とんでもないことになったけど、参加者たちは興味津々だ。 「100円ショップでネコが乗らないようにするトゲトゲを買ってきたんですけど、効果がなくてですね、結局、猫が飛び乗って倒しちゃいましてね、液晶が割れました」 いきなりけっこうエキサイティングな話が始まってしまった。それに触発されたのか、いままで沈黙を守り続けていた参加者がマイクをオンにして話し出す。 「じつは、わたしも最近、液晶が割れまして、ノートパソコンなんですけど……」 他の参加者も続く。 「わたしもスマホの液晶を落として割ってしまいまして……」 なぜか液晶が割れたことをカミングアウトする会みたいになってしまった。みんなが次々と液晶が割れたことをカミングアウトし始める。本体の講演会より盛り上がり始めた。 僕もつい最近、バイクに乗っていてスマホを落としてしまい、次々と車に轢かれて液晶がバキバキになった経験があるのだけど、スマホが割れた話はけっこう出そろっていた。いまここで披露しても何をいまさらみたいになってしまう。

もういいって、液晶は!……そこに満を持して登場した熊本の高岡

現に「子どもがスマホを投げて液晶が割れまして」とカミングアウトした人が冷ややかな反応を受けている。もっとこう、目新しい液晶を割らなければならない。 クソ、なんで俺はもっと液晶を割っていないんだ! この流れの中だと、本当に液晶を割るのが正義みたいな雰囲気があったのだ。 いっそのこと、まだ出ていない冷蔵庫の液晶を割ったことにするか。うちに冷蔵庫には液晶なんてないけど、あることにして、アズキバーが刺さって割れたとか捏造するか、そう決意した時だった。 ポロン 熊本の高岡が入室してきた。最初に発表をぶっちしたやつだ。高岡は開口一番、遅れた理由を説明する。 「すいません、参加しようとしたらノートパソコンが落下して液晶が割れてしまって、代わりのパソコンを設定していて遅れました」 あいにくだけど、ノートパソコンの液晶が割れた話は3件も出ている。全く目新しくない。 皆の冷ややかな反応を機敏に感じ取ったのか、熊本の高岡は発表予定だった内容そっちのけで新たな液晶ネタをぶちこんできた。 「割れたわけじゃないんですが、うちの冷蔵庫の操作パネルの液晶がつかなくなりましてね、まったく冷えなくなったんですよ」 絶対に盛っただろ、高岡。目新しい液晶ってことで冷蔵庫を出してきただろ。なんてやつだ。 結局、液晶の話で盛り上がってしまい、あっという間に規定の時間がやってきた。 コロナ禍によって大変な世界が訪れた。けれども何事もオンラインでやれる便利な技術が発達し、それを使う風土も定着した。けれども、それは便利さの反面、それらの事象が軽くなってしまう二面性を秘めているのだ。そこに気を付けなくてはならない。 また、液晶も便利なものだけど、割れると全く使えないという二面性も秘めている。また、アナログならなんとかなるかもしれないけど、液晶の部分が壊れると全くお手上げで、冷蔵庫ごと買い替えることもある落とし穴もあるので、こちらも気を付けなくてはならない。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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