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不毛な奢り奢られ論争に終止符を打つため、おっさんがおっさんに奢られてみた。その悲惨な結末とは

しかし尋常じゃないケチだった石川さん

fk-PAUI8773_TP_V しかしながら、石川さんは度が外れたケチだった。奢ってもらうどころか、休憩時間に吸うタバコすらも僕や周囲のバイトにたかるほどの徹底ぶりだった。この人に奢ってもらうことは一筋縄ではいかない。そう思った。 「奢ってくださいよ~」  と、いつもの挨拶のごとく言うのだけど、石川さんははぐらしかたも一流だ。 「またこんどな~、絶対に奢ったるから!」  と言って、その「またこんど」は永遠に訪れない。それどころか条件を付けてくるのだ。 「店長の秘薬について謎を解き明かしてきたら奢ってやる」  僕たちが働いているパチンコ屋には、恐ろしい店長が存在した。とにかく怒りの沸点が低く、すぐに怒り狂うどころか、手や足が出るバイオレンスな方で、バイトも社員も一様に彼のことを怖れていた。たぶん人を殺したことがある、そう噂される人だった。  その怒りの化身たる店長は完全なるスキンヘッドだった。それがいっそう、恐ろしさを際立たせていた。

スキンヘッド店長の「とある謎」

 我が店には語り継がれている7つの謎があった。それらについてはそのうち語ることとして、そのうちの一つ、店長が瓶に入った整髪料を大切にしていたという事象もまた七不思議として受け継がれていた。  店長はこの整髪料を大切にしており、従業員用の洗面台に置かれたそれを触れることはご法度とされていたのだ。何も知らないバイトが初日に使ってしまって、その日にクビになったほどだから、かなりのものだ。  なぜそこまで整髪料を大切にするかという点はさておき、問題はもっと別の部分にある。そう、スキンヘッドの店長がなぜ整髪料を所持しているかという問題だ。  整髪料は、読んで字のごとく、髪を整える、料である。しかし、スキンヘッドの店長には整えるべき髪がない。別にハゲているわけではなく、迫力を出すために剃り落としていた店長だったが、やはり髪には無縁な状態と言わざるを得ない。  なぜスキンヘッドの店長が整髪料を? そんな疑問から我々はそれを「秘薬」と呼んでいた。石川さんはその秘薬の謎を解き明かして来いというのだ。そんなもの、店長に「あんたスキンヘッドなのになんで整髪料がいるの?」と質問するしかないわけで、その瞬間にぶん殴られるだろうことは容易に想像できる。
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死の危険を乗り越えてとうとう謎に迫ることとなった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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