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政治、野球、宗教の話を他人としてはいけない…ネット黎明期からのルールに“新ジャンル”が加わった

毎朝、ニュース代わりに情報を伝えてくれるオバさん

a「昨日ね、捕まった犯人がいたでしょ。そうそうコンビニ強盗の……怖いわよねえ」  オバさんとの雑談に昨日のニュースが含まれていることに気付いたのだ。どうやら、僕との雑談を楽しみにしているようで、明日は何を話そうかと考えた末、ニュースに対するコメントを話そう、というアイデアに行き着いたようだった。オバさんは明らかに予習してきて雑談に臨んでいる。  僕はいつも4時に目が覚めるとスマートスピーカーに「アレクサ、昨日のニュースを教えて」と頼んでニュースをチェックしているのだけど、それをしなくて良くなったわけだ。オバさんがもっともホットなニュースを教えてくれるのだ。こりゃ便利、最初はそう思っていた。  そこまで深く知っているわけではない人に、毎日のようにニュースを教えてもらい、その内容をもとに雑談を交わす、けっこうほのぼのしているように思うかもしれないけど、これを続けていると意外な精神的負担に気付くことになる。  ニュースの内容が捕まったコンビニ強盗の話なら良い。怖いですねえ、とか最近はなにかと物騒ですから、とでも雑談を展開させればいいからだ。強盗に対して抱く感想は人によってそう変わらないからだ。では、オバさんが「岸田首相が」みたいなニュースを提供してきたらどうだろうか。

政治と野球と宗教に関するニュースの共有は慎重にしなければならない

 もしかしたらオバさんは熱狂的な首相支持者であり、僕が「あの増税クソメガネ」とでも言おうものなら怒り狂うかもしれない。逆に反体制みたいな感じで権力に逆らうことをモットーとしている場合、少しでも岸田首相を褒めようものなら怒り狂う可能性があるのだ。つまり、内容によってはどう反応していいか難しい判断を迫られるのだ。  インターネット黎明期、僕らのような一般人が文章を書いて世間に発表することが増えつつある時代において、何かを表明して文章を書く場合、「政治と野球と宗教の話はしてはいけない」という不文律があった。これらは対象の心の中に太い幹のように存在することが多く、その中の何かを否定することも肯定することも危険度が高いとされていたためだ。  しかしながら、時事的なニュースを扱う場合、それらの話題はガンガンと登場してくる。それに対してオバさんがどういう立ち位置なのか分からないので、そこから発展させて雑談を展開することが苦しくなるのだ。僕の精神的な負担は相当なものだった。  そんな事情から、ある日、オバさんのニュースレターを避けることを決意した。少しだけ散歩の時間を遅らせることにしたのだ。けれども、オバさんは、あの公園の入口で待っていた。5分ほど遅らせても待っていたし、30分、1時間と、こっちが怖くなるレベルで待っていた。いつの間にか僕にニュースを伝えることがオバさんの日課の一部になっていたようだった。
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「ニュースオバさん」を避けることに成功した僕。しかし……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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