そして、この原稿を書いている今朝のことだった。 　また、朝4時にインターホンが鳴った。モニターにはハウスマヌカン風の姿と犬。ニュースオバさんがまた来やがった。 「ど、どうしたんですか？　僕は健康ですよ？」 　そう答えると、オバさんはかなり焦った様子で取り乱していた。 「ご、ごめんなさいね。どうしても伝えなきゃならないビッグニュースがあったの」 　オバさんは血相を変えていて只事ではない雰囲気。そりゃそうだ。朝4時に急襲してまで僕に伝えなきゃならない大ニュースだ。世間を揺るがす大事件か、もしくはオバさん自身の身に降りかかった大事件なはずだ。 　ただ、起きてからアレクサに教えてもらったニュースによると、それこそ大きなニュースはいくつかあったけど、世間を揺るがすほどの大ニュースはなかったはずだ。朝4時にそこまで親しくない人の家に押し掛けて伝えるレベルのニュースはなかった。 　そうなると、オバさん自身に降りかかったニュースのはずだ。近しい人の死などかもしれない。僕は心して聞かねばなるまいと、ギュッと唇を噛みしめた。 「ど、どんな事件があったんですか？」 「なんか、わたしがいつも見ている大好きなYouTuberが奥さんとの内輪揉めで炎上していて大騒ぎになっていて、もうどうしていいのかわからなくて」 　ほとんど何を言っているのか分からなかったけど、拍子抜けした。さすがに当事者とか、その周辺の人にとってはおおごとだろうけど、さすがによく知らないオバさんが朝4時に伝えに来るニュースではない。 「そ、そんな話題を伝えに来たんですか……」 　ついついそう口にしてしまうと、それを受けたオバさんが大激怒した。 　そのYouTuberはオバさんにとって息子のような存在であり、生きがいでもあり、いちばん淋しかった時に勇気づけられたそうだ。その怒りっぷりはすさまじく現代に蘇った修羅とはこのことかと思った。あとペロちゃんも怒ってるらしく、人の家の玄関でケルベロスのごとく吠え始めた。 　結局、これからは毎日、朝4時にそのグループのオススメ動画を教えてくれるらしい。とんでもないことになった。家に来られては困るので、また4時の散歩を復活させて、オススメ動画を教えてもらうことになりそうだ。めんどうなことになった。 　良く知らない人とは「政治と野球と宗教の話はしてはいけない」はずっと続くネットの不文律だ。最近はこれに「政治と野球と宗教とYouTuberの話はしてはいけない」となるのではないか。僕の爽やかな朝は、なかなか憂鬱なものになりそうだ。 ＜ロゴ／薊＞ テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」（扶桑社刊）が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である　読みたくなる文章の書き方29の掟（アスコム）」が発売。twitter（@pato_numeri）