「一日100人の生徒」が訪れる“保健室の先生”。多忙でも「来るもの拒まず」の理由
「保健室って、生徒や家庭が抱えている問題が持ち込まれてくることも少なくないので、世間で話題になっていることが集約されている場所だなと感じることがあります」
そう話すのは青柳慶子氏(仮名・40代)。養護教諭として保健室に勤務する、いわゆる“保健室の先生”だ。自身の育休・産休などでキャリアから離れたこともあったが、概ね15年以上の経験を持つ。
生徒の安全を守るうえで欠かすことのできない保健室。傷病の治癒のみならず、ときとして生徒の心のケアを行う場合もあるという。現役の“保健室の先生”に話を聞き、学び舎のなかで担う役割の真髄を垣間見た。
そもそも保健室を利用する生徒はどの程度の割合なのか。
「もちろん、勤務する学校が私立か公立か、共学か女子校か男子校か、生徒数などによって変動するとは思います。1000人規模の私学に勤務していたときは、多いときで一日に100人近くが保健室に来ました。年平均では、一日あたり50〜70人くらい訪れていたと思います。カウントはのべ人数なので、一人が二回訪れると二人と数えます」
のべ人数とはいえ、1000人規模の学校で一割に相当する生徒が来訪すれば、現場は多忙を極める。
「日に100人来れば無条件で忙しくなるのは確かですが、単純に人数と忙しさが比例するわけではありません。一例ですが、パニック発作を起こした生徒に対しては、落ち着かせるために側についている必要があったりします。したがって、同じ“カウント1”でも単純な切り傷や擦り傷で訪れるカウント1とは比較にならない注意力が求められます」
青柳氏はなるべく生徒が保健室に来やすいように、日頃から積極的に声がけをするようにしている。その理由はこんな思いがあるからだ。
「教員のなかには、あまり頻繁に保健室を訪れるのをよく思わない人もいます。確かに教科教育を行う教員からすると、『甘えるな』と言いたくなる生徒がいる場合もあるでしょう。ただ、もしかするとその生徒は頑張れない理由が何か他にあるのかもしれません。
生徒にとって身近な大人といえば、家族以外だと教師でしょう。しかし家にも教室にも居場所のない生徒が一定数存在します。そういう子たちが、たとえば夜の世界に引きずり込まれたり、犯罪に携わるようなことは避けたいと私は思っています。
だからこそ、『教室に入りづらいから、保健室で青柳と話をしていくか』というような軽い気持ちでもいいから、なるべく私たちを頼りやすい環境を日頃から作りたいと思っています。安易に素性の分からない大人に近づくのではなく、さまざまな公的な機関に繋げるノウハウもある私たちを信頼してもらえるように、日々業務をしています」
一日に100人の生徒が訪れることも
「身近な大人」として頼ってもらいたい
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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