もう2度と入院はしたくない
――そんな大事になっていたんですね……。
叶井:夜中にこっそりと屋上に行って飛び降りようとしたけど、それもバレて止められたことが10回くらいはあったな。もう、痛くて「逃げたい」という感情しかなかった。だから、医者も2〜3日の間に急いで治療をしてくれたよね。痛み止めを飲んでも効かなかったから、すぐに緊急手術をやってもらって、お腹の管を外に出さず、中に入れたことで痛みは治まったんだ。自分がそれぐらいの行動を起こさないと、医者もすぐには動いてくれなかっただろうね。
――早く治療してほしくてわざとやったわけではなくて、精神的に本当に耐えられなかったということですよね?
叶井:そうだね。「やめろー! 死なせてくれ!」と騒いでしまうぐらいだった。
――本を読む限り、叶井さんはすでに「死」を受け入れている印象だったので、辛い時期があったのは少し意外でした。
叶井:もう、入院は二度としたくないね。あんな痛い思いをするんだったら、「そのまま死なしてくれ」という気分になるぐらいだよ。死よりも入院に対する恐怖はあるかもしれないね。本当に痛いことだけは嫌なんだ。
ポスターと予告編でダマせ!裏方もエンターテイナーであれ
――まさに「波乱万丈」の人生だったわけですが、これまでを振り返って、叶井さんが日本の映画業界に残した功績は何だと思いますか?
叶井:功績か……。やっぱり、裏方だけどエンターテイナーであったことかな。映画は観てないけど「人が賑やかになるのは面白い」とか、つまらない映画でも「予告編がめっちゃ面白くできた!」「ポスターは最高だ!」「このコピーは素晴らしい」と、作品にまつわる断片的な箇所であっても、自分が面白いと思うことができれば、そこを切り取ってメディアや映画館に「この作品はヤバいです!」と売り込むことができたんだ。制作者だけではなく、送り出す側もエンターテイナーじゃないといけないんだよ。
――「送り出す側もエンターテイナーであれ」というのは、とても重要な考え方ですよね。
叶井:「主演は誰々で……」とか「アカデミー賞を受賞して……」とか、そんな話はどうでもいい。むしろ、「これはとんでもないバカ映画ですよ!」と、自分の言葉で相手に直に伝えられる能力が、俺にはあったんじゃないかな。
――それをできたのは後にも先にも叶井さんしかいないのでは?
叶井:そうかもしれないね。でも、この国では邦画と洋画を合わせると、年間1300本もの映画が公開されているんだ。そんな数の映画をすべて観られる人なんているわけがないじゃん。だから、心がけているつもりはなかったけど「どれだけみんなの記憶に残る予告編やポスターを作ることができるのか?」ということは常に意識してきたね。
<取材・文/千駄木雄大>
【叶井俊太郎】
1967年生まれ。メジャー配給会社、インディーズ配給会社も買い付けをためらうグロホラーをメインに日本に持ち込む。最近は日本映画界が絶対にやらない血みどろスプラッター映画もプロデュースする。バツ3。4回目の妻は漫画家の倉田真由美。代表作:『真・事故物件/本当に怖い住民たち』『八仙飯店之人肉饅頭』『人肉村』『ムカデ人間』シリーズなど
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある