仕事

多忙すぎる仕事を急に放り投げて失踪しても“成功する人”は意外と多い

仕事を引き受けすぎたゲーテ

『若きウェルテルの悩み』で、その名がたちまち広まると、ゲーテはヴァイマル公国の君主カール・アウグストに招かれた。カールと自由きままに遊んでいるうちに、ゲーテは公国の行政に深くかかわっていくことになる。  枢密院公使館参事になると、ゲーテは公国の財政難を解消するべく、鉱山開発に着手。その成果が認められて、30歳のときには枢密院顧問官に任命されている。  万能型のゲーテのもとには、仕事がどんどん増えていく。ゲーテの多忙ぶりを友人への手紙でこう揶揄して嫉妬する者もいたくらいだ。 「ゲーテはいまや、正枢密顧問官、官房長官、軍事委員長、土木・建築監督官を兼任している。しかも、娯楽監督官であり、宮廷詩人であり、祝祭や宮廷オペラやバレエや仮装舞踏会の衣装や銘文や美術品等々の製作者であり、美術学校校長であり、そのうえ、俳優やダンサーとして、あちこちに顔を出している。ヴァイマルのよろず取り仕切り係というわけだ」  ゲーテ自身はというと、そんなハードな日々を楽しんでいたようだ。メモに「仕事の重圧感は魂に快い」と書いて己を奮い立たせた。根っからの仕事人間である。既婚者のシュタイン夫人と逢瀬を楽しんだのも、この頃のことだ。  しかし、ゲーテの改革を煩わしく思う者たちもいた。生え抜きの役人たちは、しばしばゲーテの申し出を拒絶し、足を引っ張ったという。  そんな人間関係のストレスとともに、どんどん膨張していく業務。さすがのゲーテも重圧に耐えられなくなってきたようだ。ゲーテはシュタイン夫人にこんな手紙を出すようになった。 「政治問題の確執から離れて、学問と芸術に精神を向けられたらどんなにいいでしょう」  そして、ついにゲーテはすべてを放り出してしまう。  商人のふりをして馬車に乗り込むと、トランクとカバンひとつ持って、イタリアへと向かったのだ。このときゲーテは一国の宰相という立場だっただけに、公国が大混乱に陥ったことはいうまでもない。  それから2年間、ゲーテはイタリアで伸び伸びと活動的に過ごす。  恋をして、旅行に出かけ、詩をつくり……と悠々自適の毎日を送った。再びヴァイマルに戻ってきたときには、ゲーテは職務に忠実で、礼儀正しくなっていたとか。  これぞまさに真のリフレッシュ休暇である。

嫌なことがあったら逃げよう

 拙著『逃げまくった文豪たち』では、総勢40名の“逃亡した文豪”を取り上げている。つらいときこそ、文豪たちの逃げっぷりをぜひ思い出してほしい。  こんなにもどうしようもなく、逃げちゃった人たちが、世の中にはいたんだ……。何なら「文豪」や「偉人」とすら呼ばれているんだ……。嫌なことがあったら逃げてもいいんだ……。  そう思うことで、やわらぐ気持ちもきっとあることだろう。文豪たちはみな、挫折や嫌なことをエネルギーに変える天才だった。 <文/真山知幸>
伝記作家、偉人研究家、名言収集家。1979年兵庫県生まれ。同志社大学卒。業界誌編集長を経て、2020年に独立して執筆業に専念。『偉人名言迷言事典』『逃げまくった文豪たち』『10分で世界が広がる 15人の偉人のおはなし』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など著作多数。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は累計20万部を突破し、ベストセラーとなっている。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などで講師活動も行う。最新刊は『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』。
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逃げまくった文豪たち
あの偉大な文豪も、逃げまくっていた!? 知れば知るほど勇気をもらえる文豪の逃げエピソード集! 誰もが知る文豪たちも、実は仕事や勉強、家族や借金取りから逃げた「逃げエピソード」を持っている。厳しすぎる学校から逃亡したり、禁断の恋に手を出して海外逃亡したり……。しかし、その逃げた先で歴史に残る名作を生み出している。
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