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殺気立つ老人に追いかけ回され…“認知症介護の沼”で働く現役介護士の壮絶体験

うんちを漏らすことでパニックが連鎖する

――排泄関連で他に困ったケースは。 畑江:うんちを漏らすとパニックを起こす利用者が多いです。もし私たちが漏らしたら、「何やってるの、自分!?」と思った直後に、自分で処理できるじゃないですか。「汚れ物は自分で処理しなくちゃ」という考えは、利用者も同じ。でも、自分では思う通りにできないから、暴れ出してしまうんです。暴れた分だけ飛び散るし、汚物に触れた手で壁を触ったりもするから、惨事が広がってしまうという。 ――どうやって鎮めるんですか? 畑江:ほとんど、お風呂場へ連れて行って洗い流します。「キレイにしましょう」「洗いますね」「じっとしていてください」と伝えても、大声を出して暴れていると、私たちの声は耳に届かないようなんですけど。高齢者の皮膚は弱く剥離しやすいから、ウエットティッシュで拭かないといけないんですけど、暴れているから取り除ききれないんです。 お風呂場の専用イスに座ってもらうと、自分の汚れたズボンを目の当たりにしてまたパニックを起こすんですけど。日頃、お風呂場でパニックを起こさない人も、錯乱状態になるケースが多いですね。洗面器を投げつけられたり、室内履きのまま思いきり蹴られたり……痛い、痛い(笑)。 それでも、足元からお湯をあてて、お湯に慣れるとだんだん落ち着いてきます。うんちを漏らしたのを人にキレイにしてもらうのって、精神的にかなりしんどいんじゃないかな……。毎回思います。パニック度が大きい分、プライバシーには十分配慮しないといけない問題なんです。

大変な分、やりがいと喜びも大きい

――過酷な職業ですが、畑江さんは現在も認知症介護施設に勤務していますよね。 畑江:経験を積んで、シモのお世話はもう慣れました。介護業界は「労災隠しが常態化している」と言われていますけど、私もよほどのことがない限り、労災申請をしないでしょうね。色々とキリがないので。例えば、利用者にお箸で目を突かれて失明してしまったら仕事も続けられなくなってしまうので…。人生を変えられてしまうような事件に巻き込まれない限り、この業界に身を置くかもしれません。大変な分、やりがいと喜びも大きいですし。 ――世間では、介護職員不足が叫ばれています。 畑江:認知症に限らず、介護職員はもっと増えてほしいです。私のような夜型人間は、日勤より給料が割り増しになる夜勤がオススメです。夜ボーッとしているのではなく、働けばお金になりますから。ぜひ!  畑江さんは著書の中で、「銀行のATMで、隣で操作していた高齢者がオレオレ詐欺の被害者かも? と察して、声をかけた」そう。「認知症介護職に就いていなければ、見てみぬフリをしてしまったかもしれない」と取材で語っていた。 「50年後、80代のときパートナーや子どものいる、いないに関わらず認知症になったら」という問いには、「認知症への理解が進み、今より寛容な日本になっていてほしい」とのことだった。現場で働く本人の言葉だけあり、説得力と重みがあった。 <取材・文/内埜さくら>
うちの・さくら。フリーインタビュアー、ライター。2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。趣味はドラマと映画鑑賞、読書
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気がつけば認知症介護の沼にいた。 気がつけば認知症介護の沼にいた。

まさに介護の現場は命がけ!?

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